dolce text | ナノ
今、あなたが隣にいることは
「今年もあと30分で終わりか…」
時計を見上げ少し物悲しそうに、溜め息混じりに綱海さんがそう呟いた。自分も無意識のうちに目線がテレビと時計とを行き来している事に気付く。 俺達は少し狭いこたつに向かい合わせに座って、何をするまでもなく年越しを待っていた。テレビは特に見たいというものがないのだが、何となくやっている年越し特番をつけてそれを眺めていた。たまに微かに触れ合う足の爪先が、なんだかくすぐったくてあたたかい。 こういうまったりとした時間は妙に居心地がいい。 「いろいろあったな…」 「そうですね」 本当にその通りだった。振り返れば毎日が、刺激的で変化的で、人生で一番速く過ぎ去っていった年だった。 「雷門に転入したしな」 「引っ越し大変でしたね」 「まさか海から離れて生活するなんてなぁ…」 「俺も、こんなにいろいろな事になるなんて思いもしませんでした」 憧れだった円堂さんが陽花戸中に来て、自分はイナズマキャラバンの一員にしてもらって、いい仲間に出会えて、そして…
「何より、綱海さんと出会えました」
…なんて、少し照れ臭いけれど、 本当にこの一年間は目まぐるしいくらい充実していた。
「俺はお前達に出会えたから、サッカーしてるんだよな」 なんか不思議だよなーと続けて綱海さんは言った。
あの出会いは偶然か、それとも定まっていた運命か。もしイナズマキャラバンが陽花戸に来ていなかったら、沖縄に向かっていなかったら、あの海の近くで練習していなかったら、綱海さんがサッカーに興味を持たなかったら…考えれば考えるほど、偶然がいくつも重なって出来た『現在』である事を思い知る。 「あの時の綱海さんのキックは今でも覚えてます…本当に初心者だったんですか…?」 「あぁ、それまでサーフィン一筋だったからな」 綱海さんの尋常じゃない運動神経も偶然条件のひとつに入るだろう…と考えると、ますますこれは神様の悪戯じゃないかと思う程『出来過ぎた現在』だった。これこそ世に聞く『運命』と言うモノの実態なのか。 難しい事はよく解らないけれど、綱海さんと出会えたのは本当に運命なんだなぁ、なんて思って思わず笑ってしまった。 「なに笑ってんだ?」 「い、いや別に…テレビが面白くて…」 つい咄嗟の嘘が出てしまった。綱海さんと出会えたのは運命だなんて事を考えていたなんて、自分の口からは恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないから。 でも、そうか、と優しく笑いかけてくれる綱海さんがやっぱりあたたかい。
「でもさ…俺が勇気と出会えたのって、幾つも偶然が重なってある事じゃね?」
「そういうのを運命って言うんだろーな」
綱海さんのいつもの眩しい笑顔でそう言われ、頭をくしゃ、と撫でられた。 あ、いま、おんなじ事を考えてた…なんて嬉しくなりながら、頭を撫でられた手のぬくもりが俺の心をまたあたたかくした。
テレビから「10、9、…」と年越しカウントダウンが聞こえてきた。 引き寄せられるかのようにお互い顔を近づけ、今年最後の触れるだけの優しく甘い口づけ。 唇は直ぐに離れて、まだ閉じたままの瞼と睫毛に親指で触れられ、頬と頬がぴたとくっついたかと思うと、耳元に低く優しく聞こえた声。
「今年もよろしくな、勇気」
そっと離れたのを感じて、目を開き見上げて微笑む。 「こちらこそよろしくお願いします、…綱海さん」
end
*****
滑り込みセーフで年末ネタでした。 今年を振り返って、2人とも偶然がいくつも重なって出会えたことを実感してお互い愛しくなればいいよ、年跨いでちぅしていればいいよ← 私も今年イナイレに出会い、綱立があったからここまで深くのめり込むことができました!ありがとう二人とも!これからもお幸せに。
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