dolce text | ナノ
大事なものを見失わない様に
昼食休憩の時はまだ真上にあった太陽が、いつの間にか傾いていて、青かったを赤く染めていた。それに気付かぬくらい、練習に集中していたという事か…。
「もう一回、お願いします」 今日は一日練習で、午前中は皆同じメニューで基礎練習、午後は必殺技などの習得時間として個人練習に宛がわれていた。 俺は円堂さんに代わるゴールキーパーになるために、必殺技習得の練習をしていた。先輩である綱海さんがその練習に付き合ってくれている。 「いくぞー」 その掛け声と共に、綱海さんが得意とするサーフィンを象った『ツナミブースト』が、俺に向かって放たれる。 すかさず自分も『ムゲンザハンド』を出そうと目を閉じ、ボールの気配を感じて手を前で合わせてそのまま出す。だがやはり上手くいかず、勢いよく向かってきたボールと共に自分の体もゴールへ吹き飛ばされてしまう。勢いが無くなったボールは地面へ転がり、俺も地面に叩き付けられた。もうさっきから何度もこうなっている。 「おい、大丈夫か?」 駆け寄って来てくれた綱海さんは手を差し延べてくれたけれど、大丈夫ですと答えて自分で起き上がる。 手加減されては練習にならないから、綱海さんのシュートは全力だ。それを何度も喰らって痛くない訳ではないけれど、技習得の為に、強くなる為に、頑張らなくてはいけない。
額に微かに滲む汗と、少し上がった息づかいと、キーパー用グローブをした手の平に走る痛さと、地面に何度も打ち付けて痛みと汚れがある体の節々。 「綱海さん、もう一回、お願いします」 それでも、ゴールを任されたからには頑張らなければ、もっと強くならなければいけない。俺は今日、もう何度目かになる言葉をまた綱海さんに言った。 だが綱海さんは俺の前を動かず、少し難しい顔をしてこちらをじっと見ていた。 「あの…綱海さん…?」 そして急に綱海さんは自分の後ろに回り、何をするのかと思ったら、いきなり自分の体が浮くのを感じた。背中と膝の後ろを抱き抱えられ、正面を見上げれば綱海さんの顔が目の前にあった。何が起こったのか解らず混乱していると、真面目な顔で覗き込まれる。少し、ほんの少しだが、綱海さんが怒っている様にも感じた。 「立ってるのがやっとなやつに向かって、ボール蹴れねぇからな」 医務室行くぞと言われ、そこで初めて、お姫様のように抱き上げられているのを理解した。そして身体が痛い事も見透かされていた。恥ずかしくて顔を必死で隠すけれど、きっと綱海さんには丸見えだ。 「頑張るのもいいけど、勇気は頑張り過ぎだ」 そう言ったきり、グラウンドを去って医務室に着くまで綱海さんは黙っていた。
医務室で椅子に下ろされるとまずキーパー用グローブを外される。そして自分で気付いてなかった血の滲んだ膝を、救急箱から消毒液を出して消毒され手当てをしてもらった。 「…すみません」 「まぁまぁ、そう謝んなって」 手当てを手際よく終えると救急箱を元の所へ置き、俺の隣に腰掛ける。 「頑張るのはいい。そういうやつ、俺は好きさ」 いつもの人懐っこい笑顔の綱海さんが、真剣な顔で真っ直ぐ俺を見つめた。 「でもな…頑張り過ぎるなよ。勇気が負傷したら試合出来なくなっちまう」 「綱海さん…」 それは、同情するものでもなく俺を苛むものでもなく、俺を気遣い心配してくれるものだった。 「自分だけの体じゃねぇんだ…練習で負傷したら、一緒に戦えなくなるだろ」 くしゃ、と頭を撫でられて綱海さんがあたたかく笑う。確かに俺の頭の中は“必殺技習得”しかなかった。少し無理をしてでも一刻も早く技が出来るようにと焦っていた。 「ありがとう、ございます」 綱海さんが止めてくれなかったら、支えてくれなかったら、無理をして体を壊していたかもしれない。 「でも、頑張ってる勇気が俺は好きだ」 頭を撫でていた手が下りてきて俺の右頬に軽く触れ、顔が近付いてくる。
そして、唇と唇が触れるだけの優しい甘いキス。
添えられた手から頬を伝う温もりのせいか、それとも甘いキスのせいか、顔が赤く熱くなって、そして優しく抱きしめられた。
(勇気、赤くなってる)
(綱海さんの心臓の音も凄いです)
end
*****
ジェネシス戦で、流星ブレードに吹き飛ばされたたちむを綱海が支えて起こしていたところから発生した妄想です。医務室までお姫様抱っこで連れてってもらって、手当てしてもらって、ラブラブいちゃいちゃしてればいいなという。 綱海は器用だと思います。サッカーだって始めてすぐあんなに上手なんだもの。器用に違いないです。だから手当とかも案外できると思います。 そしてたちむはすぐ無茶するような真面目さんだといいですね。それを止めるのが綱海の役目です。必要不可欠です←
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