dolce text | ナノ
その躊躇いが愛しくて
夜だけだった肌寒さがとうとう昼にも感じるくらいの季節に移ろい変わり、木々や葉がすっかり色づいていた。街はその四季の移ろいと同様に、季節のイベントの装飾が代わる代わる飾られていた。
「もう、そんな季節なんですね」 繁華街の大きな店を見て、自分の隣を歩く勇気は呟く。せっかくこっちに来たんだからと、東京の繁華街で二人だけのショッピング。付き合い始めてから初めての正式なデート、と言ってもいいかもしれない。 前までハロウィンだったのに、いつの間にか赤と白を基調にしたクリスマスの装飾が綺麗に施されている。駅前などの人が集まる所には、様々な色に光るイルミネーションがあった。 「沖縄じゃあんま馴染みねーからな…」 そうは言っても、沖縄にだって中央に行けばそういう装飾など見かけるかもしれないが、ほぼ毎日を海で過ごしていた自分にとってはおよそ無縁に近かった。そもそも沖縄自体の雰囲気が何となく冬と遠いイメージである。 「俺は、小さい頃こそは親がご馳走を作ってくれたり、プレゼントを用意したりしましたが、中学生にもなると何もないですよ」 懐かしいです、とぽつりと呟く。 「なんか、楽しそうだな、そういうの」 「皆で和気藹々とやるのもいいと思います…」 そう言った勇気は、何だか少し淋しげにも取れるような表情をしていた。 「勇気…?」 「あっ…いえ、何でもありません」 笑顔でそういう勇気の表情は、明らかに曇っているのがわかる。どこか淋しそうで諦めの表情と、誰も気付きそうもないくらいの小さな溜め息。それを見逃さなかった。
とても素直で誠実で純粋な所が勇気の良いところで、その性格ゆえ、感情が表情や態度に出やすいのも知っている。だからすぐ原因は解った。
「なぁ勇気、クリスマスイヴの日、空いてるか?」
「…え、」
少し驚いたように、若干俯いていた顔がこちらを見上げる。 「あ、空いてますけど、」 「そのまま空けとけ」 少しねこっ毛で触り心地のいい頭に、ぽん と手を置き優しく撫でる。 「クリスマスデートだ」 表情が一気に明るくなり喜びに満ちたような目を輝かせるが、直ぐにしゅんとしてしまう。 「でも…綱海さん、受験生ですよ…?いいんですか?」 やっと理解した。何を躊躇っていたかは解らなかったが、なるほど、それでこいつは躊躇って諦めていたのかと原因が解り、そんな優しさと可愛さに堪らなくなる。 「俺こう見えても勉強出来なくはねーから、そこまで根詰めなくても大丈夫なんだよ」 それを聞いた勇気の意外そうな視線と表情はこの際流してやるとして、また喜びに満ちた瞳を輝かせて、頬が多少赤くなった笑顔をこちらに向けた。 「楽しみにしています」
…なんか、すげー可愛い。 表情をコロコロ変えて、自分の為を思った優しさだとか躊躇いだとか、約束ひとつで喜びに満ちた表情だとか、そういう行動総てがなんだか愛おしく感じて、
普段気にする、人がたくさん行き交う場所なのに構わず、背中に手を回して思いっきり引き寄せて抱きしめた。 「…っ…ちょっと、つなみさ…」 抵抗はしないが、流石に慌てふためいた勇気は、抱き着いてるから見えないけれどきっと顔を真っ赤にしてるんだろう。だって耳まで赤い。
「勇気、おまえ可愛いすぎ…」
手を繋ぐ、抱きつく、それだけでも目の前の恋人はこんなに赤くなってるのに、
(ちゅー は、クリスマスまで取っとくか)
end
*****
12月に間に合った…滑り込みセーフという所ですね。12月前にはupしたいと思っており、とりあえず一安心です。
つなみんは頭いいのか?と思ったりするけど、頭いい設定でもいいし、むしろ雷門は私立だろうからエスカレーター式でもいいと思います。 ちなみに沖縄がクリスマス馴染みないとか捏造です…綱海家が馴染みないだけかもしれない。私の勝手なイメージなのでその辺は目を瞑っていただけると…。
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