dolce text | ナノ



君の隣を希望します

グラレゼ(&基緑)祭 / No.3



*学パロでリュウジが♀

















今日の帰りのSHR、そこで私の運命は決まると言っても過言ではない。
まさに私にとって運命の日だった。


だから、友達との会話の中から何気なく知ったもの、インターネットでいくつか調べてたものは、今日のそれの為に事前準備してきた。
放課後誰も居ない教室で私と彼の机の端に鉛筆でこっそり星を描いておいたし、誰にも見られないように私の机に彼の名前を書いておいたし、毎日寝る前にお祈りもしたし、今日のラッキーカラーである赤のリボンを後ろでひとつに結わえた髪に縛ってきた。

…まぁ、今日の朝ニュースでやっていた星座占いではあまりいい結果ではなかったけれど、あれはあまり当たらないから気にしないことにする(結果がいい時は信じているけれど)。

これならきっと、大丈夫…!

よし、といつもの元気を忘れないように、姿見に向かってとびっきりの笑顔を作ってみた。
手作りのさくらんぼのお守りをそっと制服のポケットに入れて、私は鞄を持ち「いってきます」と元気よく家を飛び出した。



午前中の授業はそのことで頭がいっぱいであまり集中できなかった。先生の板書をただ手元のノートに写しているだけで、全く頭に入ってこなかった。
それでも私のお腹はいつものように音を鳴らして空腹を知らせるから、食い意地が張ってるみたいで恥ずかしい。

四時間目終了のチャイムと同時に散るクラスメイト。私はいつもの仲良しのメンバーの集まる方へ弁当を持って駆け寄った。

そしてやっぱり出る、この話題。

「今日、席替えだよね!」

弁当をつついていると一人がそう言ったので、思わずぴくりと反応してしまった。
誰の隣になりたいだとか、誰と近くになりたいだとか彼女達は楽しそうに話す。つい最近まで恋愛話に興味がなかった私は、友達のそういう話を聞いてもいまいちよく分からないところがあった。


だが、本当に最近の事だ。

『ただ同じクラスの性格の女子に人気な男子』だと思っていた彼に、落としてしまった大切な大切なハンカチを拾ってもらったのだ。
しかもきちんと洗濯して、そしてアイロンまで掛けてくれて。

そして泣きながら探していたぐちゃぐちゃの顔の私を慰めてくれて、私がお礼を言わないうちに彼はそっと微笑んで帰ってしまったのだ。


たったそれだけの事だったのに、気づいたら私は彼を気にするようになり、気づいたらその綺麗な赤髪を視線で追いかけていて、一昨日は遂に夢にまで出てきた。
あたたかい痛みの伴うその感情に気づかないほど私は鈍感じゃない。でも、恥ずかしくて周囲には言い出せず自分の内に秘めたままだった。


そもそも彼は、校内でもトップを争う人気者。私なんかを気にかけやしないだろうし、釣り合う訳も無い。
だけどせめて、あの時のお礼を言いたいから少しでもいい、話すきっかけが欲しかった。
できれば少しだけ仲良くなれるようなきっかけを、だなんて思う自分の強欲さに呆れてしまったけれど。



午後特有のあたたかさと眠気に絶えながら何とか午後の授業を受け、そして遂にその時はやってくる。

インターネットで調べた通り、私はそっと前列の席に居る彼の背中に向かって「ビスミラー、ビスミラーヒ、ビスミラーヒ」と三回唱える。よく分からない言葉だけれど、隣になれるおまじないらしい。

席替えは簡単なくじで行われた。
番号が書かれた紙を一枚引いて自分の名前を書き、提出する。席の番号は毎回ランダムで決められる為、例え番号が近いからといって席が近いという訳ではない。
その後ランダムで割り当てられた座席番号を見て、自分の引いた番号の場所へ机を移動する。




結果から言おう。

残念ながら彼とは隣どころか近くにすらなれなかった。


SHRが終わり皆が散り散りになって教室を立ち去る中、私は思わず深い溜め息をついた。今日まで頑張っていただけに、この落胆ぶりはしばらく帰れそうな気がしない…。


「溜め息つくと、幸せ逃げちゃうって知ってる?」


ふと頭上から降ってきた優しい声音にどきりとして、そうっと顔を上げる。そこには、深緑の双眸と鮮やかな赤髪を携えた彼、基山ヒロトが私の横で微笑んでいた。

「…き、やま……!」
「ねぇ、緑川」

ふいに自分の名前を呼ばれて、肩を揺らし過剰反応してしまった。羞恥で微かに頬がほんのり熱を持ち始めたのが自分でも分かる。

「な、何…?」

彼の口から発せられたのは、私が予想だにしていなかった言葉だった。


「今日良かったら一緒に帰らない?」





君の隣を希望します



「嫌かな?」
「ぜ、全然!嫌じゃない!…でも、」

「どうして…私?」

彼女はきっと無意識だろう、座っているせいか上目遣いでこちらに尋ねてきた。ほんのりと桃色に染まった頬と、人差し指で髪をくるくると弄る姿が何故か妙に可愛らしかった。



(君の涙に一目惚れしました、)


(だなんて、言える訳が無い)











end