dolce text | ナノ
夏祭り
*緑川女装注意
心地よい風が摺り抜ける夜。 いくら夏といえど日中よりも過ごしやすい時間帯だ。 そんな時間に、駅前の少し大きい通りが賑わっていた。その通りの至る所に提灯などの装飾が施されており、昼頃から屋台が通りにそって並び、準備をし始めていた。
今日は、街の夏祭りが催される日。
「…やっぱ恥ずかしいよ…」
俺の左腕に半ば抱き着いて後ろに隠れようとする緑川はそう呟いた。 今日の緑川はすごく可愛い。正確に言うと、いつも可愛いが、今日は更に『可愛い』に『美しい』が加算されている状態。
黒地に桃色の桜の花が描かれている浴衣に身を包み、結ばれた帯からは繊麗さが際立つレースが少し顔を覗かせている。踝まである浴衣の丈から覗く綺麗な足は下駄を召し、少し歩き難そうにちょこちょことそれを動かす。いつも高い位置で結われている髪は、今日は上の方の髪だけ後ろで緩くお団子に纏められていて、残りは肩に落ち着いている。
端からみれば、まず間違いなく女の子に見える。
「すごく似合ってるよ、緑川」 「…嬉しくない!」
頬を膨らませてそう怒るその表情さえ可愛い。
「それなら、誰も男だなんて思わないよ」
そっと囁けばほんのり赤く染まる頬。そして緑川がぼそりと呟く。
「…お、俺は、ヒロトが喜んでくれるなら別にいい…」
早速爆弾発言を投下してくれて、俺は思わず固まってしまった。 あまりの衝撃発言とその可愛さにふっと微笑んだ俺を見て、どうかしたかと尋ねてくる緑川。何でもないとはぐらかして、その手を緩く引いて屋台の方へと歩き出した。
通りは既に人混みで、屋台を一通り楽しめばさすがに歩き疲れてしまった。 と、馴れない下駄で歩き回っていたせいで、どうやら緑川が足を痛がっている様子が伺えて。 さりげなく人混みから外れ、その近くにあった公園のベンチに座らせる。
「足、無理させちゃったね…」 「…気づいてたのか?」
下駄を脱ぐ緑川の足にそっと触れ、キスをひとつ落とす。擽ったそうにする緑川の足を見ると、鼻緒に当たる部分が赤くなってしまっていた。幸い水ぶくれはしていなくて、そっと胸を撫で下ろした。
「ごめんね、緑川」 「…ヒロトが謝る事じゃないだろ」 「これじゃ帰れないだろうから、…」
そう言って下駄を人差し指と中指にかけて持ち準備完了、そして尋ねる。
「お姫様抱っことおんぶ、どっちがいい?」
その瞬間、ぽっと赤くなる緑川の顔。
「…どっちがいいって……ど、どっちもいい訳ないだろっ…!」 「でも、帰れないよ?」
笑顔を向ければ、ますます羞恥の色に染まる頬。
「……おんぶで、」 「わかった、お姫様抱っこね」 「ちがっ…!もう、ヒロトのばか…」
またも膨れっ面になった可愛い緑川に背中を向けて「どうぞ」と促せば、恐る恐る肩に伸びてくる手。そして体重を預けられ、慎重にゆっくりその体を持ち上げた。
「…重くない?」 「家近いし、大丈夫だよ」
耳許で囁いてくるその声がこそばゆくて、思わず顔が緩んでしまった。
夏祭り
「ねぇ、ヒロト」 「何?」 「家近いんだったら、履物をヒロトが取りに行ってくれるって手もあったんじゃ…」 「緑川をあのままベンチに置いて行ったら、絶対誰かにナンパされてたよ」 「…ナンパ…」
(それくらい君が可愛いって事、少しは自覚して欲しいもんだね)
end
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2010年8月拍手文でした。 女物の浴衣を緑川に着せたい…!という管理人の欲望を忠実に再現した文でした。女装苦手な方がいらしたら申し訳なかったですね…!
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