dolce text | ナノ



この熱は、



茹だるような暑さ、肌に纏わり付く熱風、容赦なく照り付ける太陽。
どうやら本格的に夏がやってきたようだ。
まだ若干湿気を含む大気は、全身をすっぽり覆っていて気持ちが悪い。全身の汗腺からじわりと滲み出る汗は肌の表面を濡らす。


そんな暑い気候だというのに、その暑さを増幅させてくれるモノがひとつ。

「緑川…今日も可愛いね」

そう言って後ろから抱き着かれ、頬と頬をくっつけるかのように耳許で囁かれた。

「っ…ヒロト!」

背中にぴたりと張り付けられた彼の胸板から、腕から、くっついている部分から、彼の熱が伝わってくる。
「あぁもう、…暑いから離れて!」
暴れてみるものの、俺の前に回された腕はがっちりと俺を固定している為、ただ暑さが更に増すだけだった。

「また照れちゃって…可愛いね」

人差し指で頬をふにふにと突かれて、耳の裏をちろりと温かい何かが滑る。驚きと擽ったさで思わず体を強張らせてしまう。体が余計に熱を孕む。暑い。
「汗で湿ってるからさ、離れてよ…」
逃れようと脱出を試みても、やっぱり力が篭った彼の腕からは難しかった。

「別に気にしないよ、俺は」
そう言って肩に頬を擦り寄せてくるヒロト。だから、汗で濡れてるって言ってるのに…。


不意に、彼の右手は俺の右頬を撫で、ゆっくりと左を向かせられる。そうして待ち構えていたヒロトの唇が、小さくリップ音を立てて俺の唇に触れた。

「…ん、」
少し無理矢理な体勢での口付けは直ぐに離れていった。
そこから少しずつ少しずつ、熱を帯び始めて。

じと、とした首筋に汗が一筋つう、と伝って落ちる。焦がれてしまいそうな程、暑い。

こちらに薄く微笑みかけながら、直ぐ近くにある緑の瞳の視線になぞられる。妙に心地よい。

今度は左手でヒロトの頬にそうっと触れ、引き寄せて。
その薄い桃色の綺麗な唇に優しく触れる。


茹だるような暑さ、肌に纏わり付く熱風、容赦なく照り付ける太陽。

そして、人のぬくもり。


体中が暑い。
全身から汗が吹き出る。

それは、夏のせい?
それとも、そのくちづけのせい?




(この暑さで、体なんか熔かされてしまえばいいのに、)











end









*****

2010年7月拍手文でした。
本格的に夏だなぁ…と思って書いたネタです。暑いのにくっつく二人が微笑ましい。


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