dolce text | ナノ



勝って泣こうゼッ!



*ゲーム3ネタバレ含みます
 (クリアしていれば大丈夫です)















ひとつのホイッスル音がスタジアム中に長く響く。観客のざわめきが一瞬にして静まった。
首筋につうと伝う汗を手の甲で拭いながら、熱の篭った二酸化炭素を吐き出して呼吸をする。身体を廻る血液は酸素を欲していて、心臓がどくどくとけたたましいくらい鳴り響いていた。

皆が一斉に、試合時間や得点が映し出されたスクリーンに目をやる。

「イナズマジャパンの、優勝です!」

放送で実況をしていた男性の声が静まったスタジアムに響き渡った。
途端、どっと観客席が沸いて歓声が飛び交う。


勝った…

俺達は…イナズマジャパンは……勝ったんだ……勝って世界一になったんだ…!


そう実感した瞬間目の前の景色がぼやけて、あたたかい液体が頬をつうっと次々に伝ってきた。それを指で拭って視界をはっきりさせようとするが、いくら拭っても次々に涙は溢れてきて止まらない。止まるどころか、鳴咽さえ漏れてきて。


「緑川、」

そんな時、優しい声が降ってきた。

涙を拭った視界に赤い髪と緑の瞳が伺えて、ますます涙が溢れてきた。ぽん、と肩に置かれた手から柔らかい熱が伝わってくる。

思わず、目の前の胸に飛び込んだ。


「ヒロト…俺達…、おれ、たち…」
「、うん」

彼の汗ばんだ背中のユニフォームをきゅっと握って皺を作った。同じく、彼も汗が滲むうなじから手を回して背中を優しく抱いてくれた。

「勝ったよ…勝ったん、だよ…っ!」
「うん、」

当然の事を鳴咽混じりの小声で途切れ途切れに言うのを、頷きながら背中をゆっくり摩りながら聞いてくれる。
鼻の先を掠めるのはほのかな彼の汗の匂い。決して嫌じゃない。むしろ、安心に似た感情を芽生えさせてくれた。


「ねぇ、緑川」

そっと、耳許に熱の篭った囁き。

「俺達は一点分、チームに貢献したんだよ」


そう言われて思い出すのは、数十分前のまだ鮮明な真新しい記憶。


仲間の上がれという声を聞いて、乱れかけた呼吸で彼と目を合わせて肩を並べ、相手ゴールへと駆け抜ける。
鬼道からの的確なパス位置の掛け声にヒロトが対応、綺麗に繋がったパスはボールをヒロトの足元へと届ける。

「行くよ」

掛け声に小さく頷いて、ゴール前へ駆け込んだ。
そこから飛び上がって、息を合わせて勢いよくボールを蹴った。ボールは赤と青のような風を纏い、凄まじいスピードで相手ゴールへと向かう。
キーパーの両手がボールを掴む。だが、その威力に耐え切れずにボールはキーパーの手を摺り抜け、その先にある白い網に突き刺さった。

それを見て、思わず右手でガッツポーズ。彼と再び目を合わせ、それからハイタッチをした。



「ヒロトと、一点…」
「うん、二人で取った一点、…イナズマジャパンに貢献、したんだ」

その声は震えていた。さっきまで包み込むような、または撫でるような様子だったその声は、余裕がないように微かに震えて。俺を抱える腕に少し痛いくらい力が込められる。

「ヒロト…」
「みどり、かわ…」

俺はヒロトの、ヒロトは俺のユニフォームを互いに涙と汗で濡らす。俺の少し高めに結んだ髪の毛先を、指先で絡めてまさぐる彼の指使いが擽ったくて目を細めれば、伏せた事によって流れ出る涙が頬をまた伝った。




ぼくらは、勝って、泣いた。

(今まで流した涙の中で、一番綺麗で、一番嬉しくて、一番幸せだった)




「あり、がとう…ヒロト」

赤くなった目と鼻で、涙を零しながら満面の笑みを向けられた。その表情に刺激され、鼻の奥がつんとする感覚を覚えて、また柄にも無く熱の籠もった雫を零す。こんなにも嬉しくて涙を流すのは人生初めてだった。

「緑川…ありがとう…」

相手の前髪を手で退けて、薄く汗の滲んだそこに口づけひとつ、落とした。











end









*****

3クリア記念基緑文。
vsリトルギガント戦で、見事ザ・バースを基緑で決めてくれた二人に感極まって文章にしてみた。だってストーリー内で緑川復活しないとか悲しすぎるじゃないか…!イナジャパに戻ってきて、二人でシュート決めてチームに貢献して、肩を抱き合って泣いていればいい。観客?きっとあたたかい目で見てくれるだろう。←
FFIは感動でした。感動をありがとう。


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