dolce text | ナノ



不可侵条約その後



*微妙に円風要素あり
















「いいかい?緑川の相談は俺が受けるから、風丸は乗らないこと」
「あぁ。ヒロトこそ、円堂と過剰なスキンシップは止めること」

顔を合わせて互いにそう言い合って、頷く。

不可侵条約、締結だ。

ふ、と笑みを浮かべた風丸がそう言い切って、ヒロトもまた頬を緩める。そしてそのまま、二人は別々の方向へと足を進めた。




はぁー、

誰もいない食堂の机に座り頬杖をつきながら長い溜め息をつく。悩みというものは悩めば悩む程、更に悩みを作ってくれるようなものだ。
以前河川敷で見かけた円堂と風丸は、とても幸せそうに手を繋ぎ二人歩いていた。
あんな風になりたい、だなんて一回でも思ってしまえば、どんどんその想いは加速度を増して募っていく。


きっかけはほんの些細な事。

ただ、俺が少しサッカーで落ち込んでいたときに支えてくれた。
ただそれだけ。
相手は手を差し延べただけで想いを寄せられるだなんて思ってもいないだろう。この情は『友』ではなく『恋』。しかも男の俺が男に。そんなもの叶う訳もなく、敵う訳もない。
世話好きの風丸が相談に乗ってくれたはいいものの、俺の悩みは一向に解決の兆しが見えなくて。

はぁー、とまた長い溜め息を吐く。


すると、食堂の前を、上に結い上げられた青い髪を靡かせて食堂の前を通り過ぎる姿を見た。

あれは風丸だ。

そう思って勢いよく立ち上がり、彼の名前を呼びながら食堂を出る。
「緑川か、どうした?」
「あのさ、相談に…」
「あのな…それなんだが、」

そう言って少し困惑の表情が混じった笑みで、俺の言葉を遮った。

「…もう相談に乗れなくなったんだ」

悪いな、と俺に慈悲の目を向ける風丸のその真っ直ぐな瞳は、何か理由がある事を察しさせた。
それを感じとって返す言葉が見つからずただ黙る俺に、風丸は優しく微笑む。

「でもヒロトの事は、きっと大丈夫だ」

意味深な言葉を残して、風丸は去って行ってしまった。



再び食堂の机に座った。
風丸に相談することも出来なくなったという悩みがまた増えた。頭を抱えて呟く。

「あぁ、もう…どうしよう…」
「どうしたの?」

嘆き呟くと、いきなり耳許で声がして思わず跳ね上がる。擽ったさを感じる程近くで囁いた聞き覚えのある、大好きなその声音。
「…ひっ、ヒロト?!」
俺の座っている後ろに立つヒロトの方を向けば、ふふ、と微笑んだ。
「驚いた?」
「い、いつからここに…」
「さあね」
そう言って俺の右隣りの席を引き出し、そこに腰掛ける。こちらを見て薄ら笑いをするヒロトに、少しドキドキしている。

「悩みなら、聞くよ」

俺を覗き込んでヒロトはそう放った。
咄嗟に顔が赤くなっているのが解る。だってこんなにもヒロトの顔が迫って、微かな息遣いも解るほど近い。自分の想いを再認識する。

「…別に、話す事じゃない…し」

顔と目線を反らして回らない口でたどたどしく言う。そのせいで言った事とは裏腹な意味に捉えられなくもない。
「へぇ…風丸には相談できて、俺には相談できないんだ…」
ぽつりと呟いたそのヒロトの言葉にまたもや驚かされた。どうしてヒロトが、風丸に相談してるのを知ってるのか。そう疑問に思うと心を見透かす様に目を細めて笑みを浮かべた。
「聞いたんだよ、風丸から」
なんの相談までかは聞いていないけどね、とヒロトは近づけていた顔をそっと離す。

「ねぇ、相談、俺にしてくれない?」

そう微笑まれても困ってしまう。だって悩みの基の人に悩みを聞いてもらうなんて矛盾している。

しかも悩みを打ち明けたら、それはイコール想いを伝える事、言わば告白になる。

「…無理、だって……」
「どうして?」
「…どうしても!」

だって、


紅色に染まっているだろう顔を隠すために俯いて、熱にほんのり上気した唇だけを微かに動かす。


(…ヒロトが、好きだから)



打ち明けるときはきっと、告白の時。












end









*****

不可侵条約というのは、リュウジの相談に乗っていた風丸さんが気に食わないヒロトと、円堂くん円堂くんうるさいヒロトに怒っていた風丸さんが、腹を割って話し合った結果約束事を作ったものです。つまりは基緑相思相愛でしたってお話。
条約は国家間の約束事の事を言うのですが、まぁこまけぇ事は気にすんな!←

本当はもっと円風要素入れたかった…。風丸がヒロトに嫉妬してたり、逆にヒロトが風丸に嫉妬してたり…。二人のガチバトル(口論)とか書きたかったのですが、うまく収まらなかった…何回も書き直しております…。
基緑を中心にできたので悔いはない…と思います。誰得って俺得。←
お粗末さまでした…。


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