dolce text | ナノ



シャンプー



背中にばらばらに散っているその少し薄い緑の髪を掬い、シャワーでお湯を馴染ませていく。少し癖のある髪は、濡らせば重力に順応するかのように真っ直ぐにその細い背中に張り付いた。
濡れた髪が当たると背中が痒いと言われ、左手で髪を少し持ち上げながらお湯で濡らしていった。

そして掌に髪量に相当するシャンプーの液体を取り、ゆっくりとその髪に馴染ませて泡立ててゆく。頭皮は爪を立てずに優しくマッサージするように、耳の後ろや後頭部の髪も撫でるように、毛先は傷まないように掌で揉んで、頭全体を洗う。

目の前の鏡に映ったその緑の長い髪の持ち主の顔を伺えば、彼はどうやら気持ち良さそうに目を細めていた。

「気持ち良い?」

そう耳許で囁いて訪ねれば、とろんとした目でこくりと首を縦に振った。

「なんか、マッサージみたい…」

そう言う彼の前髪を掬って額を露にする。しっかり生え際にも指の腹を滑らせて泡を馴染ませる。そして前髪を後ろ髪と一緒に泡立てて、いいことを思いつく。
彼の後頭部の髪を泡で上の方に持ち上げ、前の方の髪はその持ち上げた髪と合わせて束ねる。
上の方で形を調え、ソフトクリームのような髪型の完成だ。

「緑川、鏡見て」

そう促して、すっかり気持ち良さに浸っていた彼は鏡を見た途端、驚いたように目を見開く。

「んもう!何やってんのヒロト!」

「ふふっ、レーゼの髪型」

鏡を覗けば懐かしいあの頃の彼が、そこには頬を膨らまして怒っている姿が写し出されていた。

「髪、伸びたね」

髪の毛が伸びた分、それは昔の姿とは少し違って見えた。

「伸びたら悪い?」

「いや全然、むしろ可愛い」

含み笑いで呟けば、ばか、と小さく文句を零す。


再びシャワーを右手に持ち、左手でコックを捻ってお湯を出す。流すよと声をかければ返事を返され、その先程ちょっとの出来心で遊んだその髪型をお湯を馴染ませながら崩していく。耳の裏はお湯が入らないように耳を優しく覆って塞ぎ、顔にもかからないように少し上を向かせて流していく。
背中を伝って流れるシャンプーの泡は排水溝に吸い込まれ、回転しながら消えていく。

そしてすっかり泡も汚れも流れたその髪をタオルで包んで優しく揉む。タオルは髪の水分を吸い込み湿っていく。ある程度水分がとれたと思ったらその緑色を取り出して、束ねてくるりと一回捩って頭の上で留める。

「ふぅ…気持ち良かった…ありがと」

ヒロトは頭洗うの上手いんだよね、と振り返って笑顔を向けられ、俺の理性を掻き立てる。

「そんな事言ってるけど、ここ、どこだか解ってる?」

「どこって…」


お風呂場…と言いかけたその顔はみるみる羞恥の色に染まっていく。

「ねぇ、」

掻き乱された理性はどんどん崩されて、まるで流れていった泡のように消えていく。



シャンプー



(そしてシャンプーの匂いに溺れてゆくのだ)











end









*****

2010年6月後半拍手文でした。
お風呂ネタ…初めてかもしれないです。リュウジがヒロトに甘えて洗ってー!と頼んでいてもいいし、俺が洗うよとヒロトが進んで洗ってもいいと思います。
そしてお風呂なんか裸の付き合いの場なんだから以下略←


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