dolce text | ナノ
七転び八起き
風を感じて靡く髪が、スピードを緩めればそっと肩に下りる。少し肩で息をしている体をそっとベンチに下ろして、ふうと一息ついた。
足はもうすっかり軽い。普通に走るのには何の問題もなかった。 汗が薄く滲む肌に心地のよい風が吹き抜けて、思わず目を細める。若干の疲労感はあるものの、この気持ちのいい感覚…ボールを夢中になって蹴った後の爽快感と同じだ。つまりはいい汗かいた、と言うところ。
そしてベンチに両手をついて空を見上げれば、今日は晴天に恵まれているせいか、雲ひとつとして見当たらなかった。
あれ以来、空を見上げてなかったな…
ふとそんな事を思い出して、久しぶりに仰ぐ青空に妙に心が動かされる。
思い出すのは、異国で一生懸命練習に試合にと励んでいる、一週間に一、二回電話で会話を交わす、彼。 時間帯は時差で正反対だと言うのに、向こうは練習で忙しいのに、それにも関わらず毎回電話を寄越してくれる。
彼を乗せたジェット機が飛び立ち、青い空に溶けて消えて行くのを見届けた日を最後に、俺は空を仰ぐ事をすっかり忘れていた。
ずっと下を向いていたのだ。
日本に残されてからじわじわと感じる悔しさに、不甲斐なさに、そして淋しさに、俺は塞ぎ込んでいた。 うまくボールが蹴れなくて何度も苛立った。思い通りに行かない体に涙を零した。
それでも頑張れたのは、その先にある彼の背中のお陰。 待っている、と約束を交わしてくれたその握手のぬくもりのお陰。 テレビで見る、頑張っている姿のお陰。
あなたは、この空をどんな眼差しで見上げてますか?
現地にいながらも俺を気にかけてくれ、悲しくなるくらい優しい言葉をメールでもらって、そして電話で励ましてくれて。 もう返しても返しきれないくらいのたくさんのモノをもらって。
俺にできる事といえば、ただひとつ。
七転び八起き
(何度転んでも、手を差し延べてくれるヒトがいた。だから、)
「待たせたね、ヒロト」 「うん、待たせ過ぎ…緑川」 「…ありがとう」 「ふふっ、さぁ行こう」
一緒に世界のフィールドに一歩を踏み出せば、そこは無限の可能性を秘めた holy ground .
end
*****
七回転んでも、八回起き上がればいい。手を差し伸べてくれる誰かがそこにはいるんだから。 特に緑川は生真面目だからすぐ挫けちゃうと思う。でも、そんな緑川の心の支えにヒロトがなればいいんだ。起き上がった先に、青い空を眺めて感動すればいいんだ。
世界編でリュウジ離脱にすっかりしょげている私ですが、切実に復活を願います…。
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