dolce text | ナノ
添い寝
合宿所の自分の部屋のドアが叩かれる音がして「はい」と返事をしつつドアを開ける。するとそこには、隣部屋の髪を下ろした寝間着姿の緑川が立っていた。
「ヒロト、あのさ…」
俯きながらもこちらにちらちらと目線を送って、目が合うとまた目を伏せる。目が少し赤いのと涙を微かに浮かべている様子が伺える。そして顔を赤らめ、俺にとっての殺人的言葉を口にした。
「…一緒に寝てもいい…?」
「でも緑川から『一緒に寝よう』なんて、どうしたの?」
何があって緑川が僕と一緒に寝ようなんて言ってるのか解らなかったけれど(寝るというのは単純に添い寝を指すことくらい僕にだって解ってる)、とにかく理由が解らないと緑川を傷つけてしまうかもしれないし。
部屋に通して座ってと言うと何故か正座で縮こまって座る緑川は、髪を下ろしているせいだろうか、いつも以上に可愛い。
「…怪談を聞かされて…」 「あぁ、緑川は昔から怖がりだもんね」
それで幼い頃からそれを知る俺の所に来たという、単純明解な事だった。
「…ダメかな…?」
断る理由がない俺は、その返事の代わりに「監督に見つからないように、枕を持っておいで」と促す。
俺のベッドには俺と緑川の枕がふたつ並び、少し狭いそこに二人で寝転んだ。緑川はさっきと打って変わった様に楽しそうに喋る。
「怪談が怖くて寝れない割には、随分楽しそうだね?」 「……あ、うん」
そう尋ねると口篭り、決まりが悪くなった様に目の前にある枕に顔を埋める。後ろの少し癖のある、長い緑色の髪をつまんでぱらぱらと離してみる。
「でも、こうやっているとおひさま園の頃を思い出すよね」
顔を埋めた緑川の背中にそっと頭を乗っけて心臓の音を聴くような態勢になる。実際心臓の音が聞こえるし、なんだか少し脈が速い気もする。
「昔は、みんなでお昼寝とかしたよね。姉さんの隣奪い合ったりもしたなぁ…。そういえば、緑川はいつも治の隣だったよね」
懐かしいなあと笑うと、赤くなった顔を上げて「昔は昔、今は今!」と照れながら反論してくる。
「じゃあ、今は?どうして俺の部屋に来たのか、ホントの事を教えてよ。それとも、言い当てた方がいいかな?」
笑顔で問えばさらに頬を赤くしてしまう。本当に昔から緑川は可愛い。
「昔みたいに……ヒロトと…」
「……添い寝がしたかったんだ…っ」
そう小さく呟いた緑川に思いっきり抱きついた。緑川の可愛さって底知れないし、敵わない。
明日の朝まで、この手は離してあげないから。
end
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2010年5月拍手文でした。 ヒロトと一緒に寝たいが為に、怖い話を頑張って聞く緑川とか可愛いと思います。
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