dolce text | ナノ



リップクリーム



指でつついたその唇は、空気に触れているせいでいつもの潤いが失われている事に気付く。

「緑川、唇が乾いてる」

普段はこんな事ないのにどうかしたんだろうか。人差し指で優しく唇をなぞってそう言うと「なんか最近よくわからないけれど、唇の調子がよくない」と表情を曇らせた。

「ちゃんと休んでる?」

そういえば彼は最近練習を頑張っている。でも変に力んでしまっているようにも見える。
そんな彼がちゃんと休んでいるか心配であった。疲れが肌に影響することだってある。唇の乾燥はその初期段階かもしれない。

「…寝てるつもりなんだけど…」
「リップクリームは持ってる?」

その問いに横に首を振る緑川。男子だとやっぱり持ち歩かないか…女子は殆どの子が持ち歩いているんだろうけどね。

そして俺はポケットから、全くと言っていいほど使用しないのに姉さんに持ち歩かされている薬用のリップクリームを取り出し、自分の唇に多めに塗る。今は持たせてくれた姉さんに感謝したい。
そしてリップクリームを再びポケットに閉まって準備完了。

「緑川、こっちむいて」

言葉通りに顔を向けた緑川の両頬を両手で包み、乾いた唇に、リップクリームをのせた唇を撫でるように乗せた。


そろそろ大丈夫かな、と名残惜しくゆっくりと唇を離すと、きゅっと目を瞑っていた緑川の瞼がゆっくりあがる。顔は、例えるならりんごの様に真っ赤に染まった頬が艶めく。

「これで少し、乾燥がおさまるといいね」
あまりにも赤い顔が可愛い緑川に、俺は頬を緩ませてそう伝える。すると俯き加減に膨れっ面の緑川が、無自覚に上目使いをして訴えてきた。

「リップクリーム貸してくれるだけでよかったのにっ…!!」


俺の唇はというと、薬用のリップクリーム特有の爽快感と甘くて異様な熱とを帯びていた。











end









*****

2010年5月拍手文でした。
リップクリームをヒロトが貸して「あ、間接キス!」みたいなのとどっちが萌えるだろうって私の頭の中で会議開いた結果こうなりました←
疲れで唇が荒れるかどうかはわかりませんが、なんせ超次元なので(要するに何でもあり


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