dolce text | ナノ



苦しみは半分こ



休憩にすんぞー、と元気のいい円堂くんの声がグラウンドに響く。皆各々でサッカーボールをその辺に転がしてベンチへ歩き出す。
俺も額にうっすら出た汗を手の甲で拭い、ベンチへと向かう。

用意されていた水分補給のボトルや汗を拭うタオルを受け取り、ふと辺りを見回す。ベンチの周りに集まる人の中に、俺の探している人はいなかった。
今度は視界を広げてグラウンドの方を見渡せる限り見回してみる。すると、ベンチとは反対の木の影に座る人影を捕えた。顔を抱えた膝に埋めているその人影は、間違いなく探していた人、緑川だった。

「…あれ、緑川くんがまだボトル取りに来てないみたい…」
ベンチに残ったボトルとタオルを眺めながらそうマネージャー達が話すのを聞き、声をかける。
「緑川には俺から渡しておくよ」

すると、「じゃあお願いね」と木野さんに頼まれ、その二つの物を受け取った。


反対側にある木の影へと近付いた。

「緑川、」


そう声をかけると、肩がびくっと震える。それでも顔を両膝に埋めたまま、緑川は黙っていた。

「水分補給しないと脱水症状になっちゃうよ」

この炎天下での練習で随分汗をかいている筈。膝を抱える手の近くに冷たいボトルを近付けて、はい、と渡す。けれども握ってくれない。

(変な所で意地っ張り…)

この様子だと何か嫌な事でもあったみたいだ。とりあえずタオルをそっと首にかけて隣に腰掛けた。


木陰は案外風が通って涼しい。
少し経ったが未だそのまま顔を埋める緑川は、どうやら泣いているようだった。そうっと、緑川に体重を預けてみる。

「せめて水分補給はして欲しいんだけど…体調悪くなったら、せっかくの練習が水泡に帰すよ…?」

そう耳許で囁いてまたボトルを手渡せば今度は受け取ってくれた。
腕で涙を流しているであろう目を拭い、やっと顔を上げてボトルの飲み物を口にする。
とりあえず一安心だ。

涙で赤くなった瞳を伏し目がちにこちらに向けられ、俺は安堵の混じった微笑みで返す。
と、まだ涙が溜まった瞳で膨れっ面になって睨まれた。


「…っなんで、ヒロトは俺なんかに構うの?俺なんか、……ほっとけばいいだろ!」

急に大きな声でそう怒鳴られた。寄り掛かっていた体を浮かせて、緑川と正面で向き合うように態勢を変える。
緑川はぽろぽろと涙を頬に伝わせていた。その無垢な黒い瞳から零れる雫を優しく人差し指で拭う。

「何かあった?」
「…っ…ほっとけよ…!」

鼻を啜りながら泣く強情な目の前の緑川に、流石に困ってしまう。
聞こえないようにため息をついて、涙を拭っている彼の両手を優しく包み込むように握る。

「ほっとけない」
「…っほっといてよ…」

顔を反らして下を向く彼の流した涙は、俺と緑川の膝に降り注ぐ。零れたばかりで体温を含んでおりまだ生暖かいその雫は、とても綺麗だった。

「そう言われても、俺は緑川が気になるから放っておけない」

両手をそっと話して緑川を引き寄せて抱きしめる。


「ひろ、と…」


(放っておいたら、どこかに行ってしまいそうで)

ぎゅううっと腕に力を込めて思いきり抱きしめた。

「もっと…甘えていいんだ」

耳許でそう囁けば、次第に強まる背中のユニフォームを掴む力と鳴咽交じりの泣き声。


「…ヒロトの、ばかぁ…」


グラウンドから賑やかな声が聞こえてきた。練習、始まっちゃったかなぁ…と思いつつ、引き寄せている体をより強く抱きしめた。




(で、どうして泣いてたの?)
(れ、練習うまく、行かなくて…)
(ふふっ…じゃあ練習付き合うよ)
(…うん、)











end









*****

うちのリュウジはよく泣くなぁ…まぁ私が泣かしているんですが^^
ヒロトはリュウジをしょっちゅう気にかけていればいい。リュウジ慰め担当はヒロト、イナジャパ公認で是非!!


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