dolce text | ナノ
いつになっても忘れない
ねぇねぇ、これ一緒に眺めない?
練習がない今日、そうヒロトが俺を部屋に呼んで言った。手には分厚くて大きめの重たそうな本。外観に見覚えがあるそれは、俺たちのおひさま園での成長の様子を納めた写真がいくつも貼りつけてあるのだ。
それに頷くと、早速座ってアルバムを床に広げる。
最初の1ページ目には、まだ物心ついているか解らないくらいの幼い皆がお父さんと瞳子さんの周りに集まって撮られた集合写真だった。 そして次のページにはおもちゃで遊ぶヒロトの様子、風介が晴矢の後ろから顔を出している様子、砂木沼さんと俺が一緒に写る写真…など、どれもぼんやりとした懐かしい記憶の断片がそのアルバムにはくっきりと残っている。
あの時は誰がこうで大変だったとか、この時はこんな事があったなど、気付けば一枚一枚の写真を見て語り合っていた。
しっかりと整理されて、写真にはきちんと一枚ずつ手書きでいつ撮られたものかが書かれていた。この少し縦に切れ長の字には見覚えがあった。
「このアルバムは、姉さんが整理したものなんだ」
そう言って写真に被せてある透明の保護シートの上から、その字を優しく人差し指でなぞるヒロト。 以前、何度かヒロトと一緒に眺めたこのアルバムは、合宿前に瞳子さんがヒロトへあげたものらしい。どうしてそんなタイミングで渡したのかは解らないけれど、ヒロトにとってはとても大切なものだ。そして俺にとっても。
そしてページを捲っていき一枚の写真に行き渡る。あ、とヒロトが人差し指で指し、俺は思わず顔を赤くする。
「懐かしいなぁ…この時の緑川、何かと泣いてたんだよなぁ」
そこには、節分の鬼に驚いて泣いてたり、おもちゃをとられて泣いてたり、初めてのビニールプールで水をかけられ泣いていたり、サンタに変装した父さんに驚いて泣いていたり、みんなに慰められているのに泣いていたりする、幼い自分の姿。 瞳子さんはご丁寧に『リュウジの泣き顔特集』と添えていた。前見た時はこんなページなかったはず…。
「泣き虫だったなぁ…」 「む、昔の事だろ! 今は今!」 「ふふっ、そうだね」
でもね、ここと、ここと、ここと…、とヒロト次々に写真を指差し、それを覗き込む。
「ほら、俺と緑川、いつも近くに写ってる」
この頃から、仲良かったんだよ、 そう囁かれて頬を吸われる様な音がしてすぐ隣にいるヒロトを見れば、その零距離に驚いた。近い、と思った瞬間離れ、微かな熱がじーんと頬に残るのを感じて、そこでやっと唇が触れていたと理解できた。
写真の幼い泣き虫緑川も可愛いけど、隣の顔を真っ赤にする緑川も可愛い。
そう微笑まれれば、喉まで来て出かかっていた、泣き虫と言われた事や不意にキスをした事に対する反論も自然消滅してしまう。
これからも近くに、 と耳許で囁かれた言葉に、ただただ首を縦に振ることしかできない自分に腹立たしい。
俺がヒロトに敵う日って来るのかな…
end
*****
題名は「思い出のアルバム」より。幼稚園の卒園式で歌ったのを覚えております。 瞳子監督はそういう事に意外とまめだったらいいと思います。実はとても子供たちを可愛がっていたり…。 幼少リュウジはやたらと泣いていて、それで皆が「だいじょーぶだよ」って慰めていればいい。ヒロトだけじゃなくて治さんとかディアム(現時点で本名出てなくて入れられなかった…)とかも、リュウジと仲良しさん。 風介は照れ屋さんだから晴矢の後ろに隠れるのです…可愛い!
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