dolce text | ナノ



パフェ



いかにも甘ったるそうなパフェグラスに盛られた生クリームを柄の長いシルバーで掬い、そのまま口へと運ぶ。
イチゴソースを含んだ大きな口、グラスのてっぺんにちょこんと乗った形のいい苺、幸せそうな短い感嘆の声と笑顔、そんな目の前に広がる光景だけで俺にとっては既に砂糖をそのまま口に含んだように甘いものだ。
おかげで一緒に頼んで食べていた自分の抹茶パフェは殆ど減っていない。


あっという間にイチゴパフェを平らげた本人は、今とても幸せですと言わんばかりの満面の笑みを浮かべていた。
口の端にイチゴソースがついているのが歳より幼く見せている。

「はぁー…うまかった…!」
「緑川は本当においしそうに食べるね」
「だってうまいんだもん、しょうがないだろ」

人一倍、少なくとも俺の二倍は食べる緑川は、本当に美味しそうに食事をする。まぁ当人が食べる事が好きだと公言しているのを考えれば理に適っているのだが。

因みに俺は少食気味だと食事を同席した人からよく言われる。


満面の笑みを浮かべたままそう言って、氷の入ったグラスに注がれているアイスティーを飲み干すと、頬杖を付きながら生クリームやイチゴソースが付いた空っぽのパフェグラスをシルバーでつつき始めた。

長年お日さま園で緑川と食事を共にしてきた俺なら、この行動の意味が安易に予測できる。だからこちらにちらりと視線を送ってきた緑川が少し輝きの眼差しだったのも、つまりはそういう事である訳で。


「ヒロト全然食べてないじゃん」
「うん、緑川の美味しそうな笑顔眺めてたらお腹いっぱいになっちゃって…」
「じゃあ…オレ食べてもいい?」
「お前の事だから言うと思ったよ…」


やったー!と目をきらきらと輝かせる緑川にそっと自分の手元のパフェグラスを差し出せば、まだ少ししか減っていないそれに、早速シルバーを差し込みその山を崩して行く。

「おいしい?」
「うまい!」


俺が少食とよく言われる由縁は、もしかしたらこうやって幼い頃から食べ物をよく譲っていたからかもしれない。
緑川はもちろん、晴矢に姉さんお手製の卵焼きを毎回ひとつ分けてたし、風介に俺の分のアイスをねだられてはあげていたし、そういえば伊豆野やルルにも分けてあげた事があったっけ。

食に対して俺はそれほどまで執着がなかったのだろう。
でも皆が食べ物を笑顔で頬張る姿を見ると自分も幸せな気持ちになるのは事実だ。


変わらず目の前で美味しそうにあげたパフェを平らげる緑川を見て思わずふっと微笑めば、それに気付いて不服そうにイチゴソースと生クリームの付いた口先を少し尖がらせる。

「なにニヤニヤしてるの、ヒロト…」

「うん、幸せだなぁと思ってね」


晴天の下、とあるカフェで、空になったパフェグラスふたつと、溶けかけた凍りの入ったグラスふたつと、ささやかな幸せふたつ。




パフェ



そっと顔を近付けて、舌でちろりと口端についたイチゴソースと生クリームを舐め取れば、顔を真っ赤にして反論してくる緑川。

口に広がるのは、甘ったるい味。










end









*****

2011年5月〜拍手文でした。


menu