dolce text | ナノ



傍らの存在



サッカーに出会えたこと。

きっかけは円堂だった。サーフィン以外に興味が全くなかったオレにサッカーの楽しさを教えてくれたのは、間違いなく円堂だった。


サッカーを好きになったこと。

確かにきっかけは円堂だった。だがあいつの周りには既にいい奴らがいて、そいつらがいなかったら多分サッカーは面白いものじゃなかっただろう。


いつの間にか熱中していたサーフィン以外のもの。好きになったきっかけをよく考えてみれば、とあるひとりの後輩の顔が浮かんだ。



「フットボールフロンティアだっけ?惜しかったな、立向居んとこ」
「全国まで行けただけ凄い事ですよ、陽花戸にとって。それに悔いはありません」

愛用しているサーフボードを小脇に抱え、オレの隣を歩く立向居。つい先日まで行われていたフットボールフロンティアの熱弁を振るう立向居の頭をくしゃくしゃにかき回して、オレは言った。

「でもよ、お前は頑張ってたろ。さっすがイナズマジャパンのGK務めただけあるよな」
「あ、ありがとうございます…!」

頬を赤く染め照れながらはにかんでそうお礼を述べる立向居が可愛くて、懐かしい。


一年前もこんな事があったっけ。



宇宙人(結局は嘘だったけど)と闘うキャラバンに乗り込んだ時は、ムゲン・ザ・ハンドを生み出すべく毎日暗くなるまで二人で練習した。
そうそう、イナズマジャパンでも必殺技に悩む立向居の練習に付き合ったっけ。

触り心地の良い立向居の髪をくしゃくしゃと撫でれば、今のようにこうやってはにかみ笑っていた。
弟が出来たような感覚ではあったけど、それ以上の何かも確かに存在していた。


「でも綱海さんのおかげです。魔王・ザ・ハンドは殆ど鉄壁なんですよ。まぁ豪炎寺さんやイナズマジャパンでお世話になった人たちには破られてしまうんですけど…」

「それは立向居、お前が努力して技を強くしたからだろ。お前ホントに努力家だもんな」


楽しそうにそう話す立向居と会うのは久々だった。
ちょうどフットボールフロンティアが終わり、大会を終えた立向居は沖縄にわざわざ足を運んできた。

三ヶ月後には去年オレも参戦した世界大会があり、恐らく選ばれるだろう事を考えれば練習せずには居られないだろうに。わざわざ、だ。


「あーあ…オレもみんなに混ざりてぇな…」
「高校サッカーの大会はこれからじゃないですか」
「そうだけどよ…やっぱりあいつらと、お前と、サッカーやってるのが一番楽しかったな」


思い出せば思い出すほど、去年に、中学生に、戻りたいと思ってしまう。
こんなにもサッカーに熱中する事になったきっかけは、多分そう。


「お前が頑張ってる姿を見るとさ、オレも頑張るかって気にさせられるんだよな」
「…俺はただ…サッカーが好きなだけで…」

「そんなお前が好きだから、オレはここまでサッカー好きになったんだぜ」


できないもどかしさを、努力する苦しみを、できたときの喜びを、分かち合えるお前がいたから、オレはサッカーがこんなにも好きになった。

「オレの一番近くでサッカーをしていたのが立向居でよかったぜ」



傍らの存在



「…今更気付いたんですか…綱海さん」
「今更?」

聞き返せば俯き加減になった立向居が小声で呟いた。

「…俺、ずっと綱海さんとサッカーしていたいと思っていたし、綱海さんが好きでした。なんのために沖縄まで来たと思ってるんですか…」

「立向居……」

両手はズボンの脇をぎゅううっと握った状態で、顔は隠れているからわからないものの、耳まで真っ赤なところを見ると安易に表情が伺えた。

「綱海さん鈍すぎます…!」


恥ずかしがりな後輩の、今までのその行動全てに辻褄があって、途端に愛しさが込み上げてきた。


(傍らの存在は、いつの間にかオレにこんなにも侵食していたなんて)










end









*****

久々に綱立でした。綱海がサッカーを知ったきっかけは円堂くんだったけど、熱中できたのは立向居が隣にいたから、みたいなのが書きたくて勢いで書き上げました。
綱海さんは高一、立向居は中二設定です。イナイレ本編一期の一年後って考えれば無難だと思います。
鈍感綱海さんにアタックし続ける後輩たちむが可愛くない訳がない。


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