dolce text | ナノ



きみのとなり



気づけばいつも隣に居て。
気づけばいつも笑っていて。
気づけばいつも楽しいと感じて。

昔からよくネガティブ思考で暗くて弱々しくて一緒に居たくない、なんて言われる事が多かった。自分でもそれが嫌だった。
物事を悪い方へ、悪い方へと考えてしまうそんな自分は、つまらない人間だと思っている。
そんなオレの隣にいつも居るのは、つまらなくないのだろうか。



「浜野くんは、どうしてオレと仲良くしてくれるんですか…?」

口にしてから後悔した。
あぁ、また余計なことを聞いてしまった、と。


「仲良く…って友達だろ、俺と速水」

当然といったように答える浜野くんの瞳は、いつものように真っ直ぐオレを見据えている。

「オレと居て……つまらなくないですか?」

あぁ、また余計なことを。
こういう発言こそが自分の嫌なところだ。
浜野くんは優しい人だから、こんな質問を投げ掛けられても本当のことを言う訳がない。でも、もし、信じてはいるが、肯定されてしまえば、今まで培ってきた友情という概念は無惨にも音をたてて崩れていくだろう。


小首を傾げ、浜野くんは笑う。

「んな訳ないじゃん。速水今、すげー難しい顔してる」


前髪と眼鏡の隙間の眉間をつん、と人差し指で突いて、浜野くんは不思議そうな目をしつつ、いつもの微笑みを浮かべて言った。


「速水は色々難しく考えすぎ」
「…浜野くんは単純すぎです」

「じゃあさ、速水が難しく考えることは単純な俺には分かんないけど、俺の分も速水がゆっくり悩んだり考えたりすればいいんじゃね?」

「お互いを足して割ればちょうどいい、ってことですか?」

「まぁ、そゆこと」

へらりと笑って当たり前のようにそう口にする浜野くんは、気付けばいつもオレの隣に居た。
隣で笑って、こんなネガティブ思考のオレの隣で楽しそうに笑っている。


初めてだった。

ネガティブ思考の事をこんなにも肯定的に受け止めてくれる友達を持ったのは。

そしていつの間にか、その寛大な器の彼の真っ直ぐな言動に、いつも支えられていたのだ。


「オレ、…浜野くんと友達になれて良かったです……」

彼の隣に居ると自然と笑みが零れてくる。彼の隣が一番安心する。
その感情の呼び名をまだ知らないけれど、確実に言えることは『大切な人』であるということ。

「うん、俺も!」




きみのとなり



そこは一番安心する居場所でした。

(ついでにさ、俺難しい事よく分かんないから数学の宿題手伝って、速水)

(またですか…いいですけど、途中飽きて寝ないでくださいね…)










end









*****

二人でひとつ、みたいな浜速を書きたくて…速水が悩んでいるときにいつも隣で笑っているのは浜野で、浜野が笑っているから速水は悩めるし、速水が悩んでいるから浜野は笑っていられる。
お互いが無意識に支えあっていればいいなぁと思いながら書いていたら、ひとつ前に書いた浜速とちょっと内容被りました…
そんな彼らが愛しいです。


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