dolce text | ナノ



こどもの日



*幼少ヒロト出現注意
















「ヒロト、入るよ?」

断ってから合宿部屋の扉を開けて俺は一瞬、思わず固まってしまった。とりあえず一旦ドアを閉める。
あぁ、最近練習で疲れてるのかなぁ。なんかすごくいけない幻覚を見ちゃった気がするけれど、これはきっと目に疲れが溜まっているだけできっと気のせいだ。
心を落ち着かせて再びドアを開ける。が、どうやら見間違いではなかったらしい…。

そこには、見覚えのある幼い少年がベッドに腰かけていた。


「…ヒロ…ト?」

その少年の姿は記憶の中にある幼き頃のヒロトそっくりだった。あの特徴的な真っ直ぐ綺麗な赤い髪も、中心の色素が薄い吸い込まれそうな瞳も、まさしくそれはヒロトのものである。
ヒロトを縮めるとまさにこんな感じ、といった少年だった。

「あれ、りゅうじ、いつそんなにおっきくなったの?」

俺の姿を見たヒロト似の少年は、そう言ってぴょんとベッドから飛び降りた。


「君は…ヒロト?」

俺は部屋に入り扉を閉め、しゃがんで目線を合わせてそう尋ねると、その少年はうん、と可愛いらしく頷いた。

「いつ、どこから来たの?」
「おひさまえんでおひるねしてたのに、きがついたらここにいたんだよ」

何故かとても楽しそうにしている幼いヒロトを見て、小さい子は普通だったら不安になるところだよな、と思う。その辺はやはり流石ヒロトと言うべきか。
でも、どうしよう。このままじゃ困るだろうから何か解決策を探さないと。

「ねえねえおっきいりゅうじ、あそぼうよ」

服を引っ張ってそう言うヒロトを宥めつつどうしようと頭を抱えていると、がちゃりと扉が開く音がした。振り返ればいつものヒロトがそこに立っており、あれ、緑川?来てたんだ、と扉を閉める。手にはどうやら食べ物や飲み物を持っているようだった。


「なんだ…そういう事だったのか…」

ヒロトの話を聞いて安堵の溜息をつく。ヒロトが食堂からくすねて来た食べ物や飲み物をお腹が空いたという幼少ヒロトにあげながら、一連を話してくれた。

「五歳の五月五日、おひさま園でのお昼寝から目が覚めると、自分そっくりのお兄さんがいるんだ。それはもう驚いたなあ…」

話によると、彼自身がこの事を体験していた為に対処には困らなかったらしい。練習から戻ってくると幼いヒロトが寝ていて思い出した、と。
成長したヒロトと俺、つまり今の俺達がいて一緒に遊んでもらったらしい。
そういえば、ある日おひさま園でヒロト失踪事件が起きたっけ。みんな必死で探しても見つからず、結局俺たちが寝た頃に帰ってきた、記憶がある。



ヒロトはパンをちぎって幼いヒロトに渡し、それを受け取ったヒロトは少しずつ口に入れる。目の前で繰り広げられる不思議な光景に、何だか変な気分になる。

「ねぇ、それ」

とヒロトが持つパンを指す。

「俺にもやらせて!」

そう頼むと、いいよと笑顔でパンを渡される。
幼いヒロトの前に座り、はいとちぎったパンを渡すと、それを小さい手で受け取って口に含む。そのひとつひとつの動作が一生懸命で、思わず見つめてしまう。

「ヒロト、食べたよ!」
「ふふっ、そりゃあ食べるよ」
「可愛いなあ…」

そういって幼少ヒロトの頭を優しく撫でる。と、こちらを見上げてにこりと笑った。

「ヒロト、こいつすごく可愛い!」
「そんなぁ…照れるなぁ」

忘れていたが、この可愛いヒロトは隣にいるかっこいいヒロトと同一人物なのだ。思わず恥ずかしくなる。


「でも、そんな顔を赤くした緑川も可愛いよ」

そう囁かれて頬に唇が触れられた。まさかキスしてくるなんて思ってなくて、そんな不意打ちに余計羞恥の色に染まる。
そしてそれを見逃さなかった幼少ヒロトがパンを飲み込んで言う。

「おにいさんとおおきいりゅうじ、ラブラブだね」
「そうなんだよ」
「ぼくもりゅうじ、だいすきだよ」

子供の口から発せられた言葉に驚いた。

「どんな所が好きなの?」
「ちょっと…ヒロト!」

構わず幼少ヒロトに尋ねるヒロトを止めようとする。恥ずかしいって…!

「えっと…ころんじゃってないて、ぼくがなぐさめたときにわらったかおとか、ひろとひろとってついてくるところとか」
「うんうん、覚えてるよ。あの時のリュウジはほんっと可愛かった…まぁ、」

今も可愛いんだけれどね、とこちらを向いて言うヒロトにまた顔が赤らむ。

「か、わいくなんかない!」
「可愛いって」
「男に使う言葉じゃない…っ!」
「そんな事言われても…可愛いんだから仕方ないよ」

ねぇー、と幼少ヒロトに同意を求めるヒロトは恥ずかしくないのか…?



「あそんでくれて、ありがとう」

微笑んでばいばい、と手を振るとすぅっと消えてしまった。全く不思議な光景だった。

「どうして消えたんだ…?」

聞けば、首を傾けて答える。

「さぁ、俺にもよく解らないんだ…」


でもね、と改めて俺の顔をヒロトが見つめるから、何だか畏まってしまう。



神様が、俺らがこうなる運命だって教えてくれた、未来なんだよ。

俺はそう思うなと抱き着かれ、そのまま体重をかけられて後ろのベッドに倒れ込む。


「さて、俺もお腹が空いたから」


いただきます、とジャージのファスナーに手をかけられた。


「!……ヒロトのバカ…っ!」


君には敵う気がしない。











end









*****

遅れた…ショタの日もといこどもの日文。
幼い自分を可愛がるリュウジを可愛がるヒロト。すごくいい光景です。
一度、誰かが小さくなったとか誰かの幼少期がある日突然現れたとか、そういうネタをやってみたかった。今回はヒロトだったけどリュウジVer.も書きたい。近いうちに書く!
書いてて楽しかったです。


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