dolce text | ナノ



手料理


*綱海の実家捏造有
*ごく自然に二人で共同生活しております












いつもは主食のほかほかな白米に熱々の汁物、主菜に副菜、おまけにもう一品、というくらいの夕飯であるのに、目の前のテーブルに目一杯並べられたこのご馳走はなんだろうか。
綺麗にセンスよく、とまでは流石に行かないもののいたってシンプルにお皿に盛られた料理からは、食欲を促すようないい匂いが立ち込めて鼻腔をそっと擽った。

その匂いに思わず顔を綻ばせてしまったが、空腹だから仕方のないことだと、何に対してか分からない言い訳を考えつつ、座布団が用意されたいつもの定位置へと腰を下ろした。



「…今日って何かありましたっけ?」

エプロンの後ろ紐を解きそれを脱ぎながらこちらへとやってくる彼、綱海さんに尋ねる。夕飯がこんなにもご馳走な理由が見当たらないからだ。
お祝い事にしても、カレンダーや携帯電話のスケジュール帳を確認してみたが、やはり思い当たる節はなかった。

「いや、なんもねーけど…何でだ?」
「だってこんなご馳走…」

向かい合う形で同じく座布団に座りテーブルについた彼の用意した料理は、いつも本当においしくて舌鼓を打つ。
故に交代制だった夕飯の準備も、いつしか彼に任せっきりになってしまっていた。その分他の家事を任されている部分があるのでそれに関しては何も問題はないのだが、初めて料理が得意だと知ったときはその性格では意外だったから正直驚いてしまったっけ。
これは後で知った話なのだが、それもこれも、綱海家が小さな民宿を営んでいるという要因もあるのだと思う。

「あー…なんか久々に腕を奮ってみてぇなーと思ってよ」
「そうなんですか…」
「嫌だったか?」
「いえ!むしろ嬉しいです」

程よく空っぽになった胃がきゅう、と音を鳴らせて空腹を知らせる。この匂いを前にして、少なくとも俺は空腹にならない訳がなかった。

「じゃあ食うか!」
「はい」

両手を合わせていただきます、と唱え、そして箸を手にとり綱海さんお手製の主菜に手を伸ばす。
ゆっくりと口に含んで咀嚼すれば、やはり優しくておいしい味が口内いっぱいに広がった。
そんな俺の一連の動作をじぃっと眺めていたらしい綱海さんと目が合い、不意にどきりとしてしまう。そんな事などお構いなしに身を少し乗り出して顔を近付けて来た彼は、真っ直ぐな瞳で問いてきた。

「初めて作ってみたからよ…味、大丈夫か?」
「すごく、すごくおいしいですよ!」

濃すぎず薄すぎない味付けと、食材を生かした調理方法。いつも思うけれど本当に美味しい。
食べ慣れた母さんの手料理に匹敵するくらい、或いはそれ以上の。

「そっか、よかったよかった!」


にかっという効果音が似つかわしい太陽のような明るい笑みで満足そうにそう言うと、やっと箸を手に取り料理を口に運び始めた。


大切な人が作ってくれた大切な食事と時間、どんなに些細な事でもそれは俺にとっての幸せに間違いはなかった。




手料理



「ご馳走さまでした」

満足そうに微笑んでそう言うと、頭をぺこりと下げた。律儀っつーか、なんつーか、礼儀正しい勇気が微笑ましくて思わず顔を綻ばせてしまった。
いいっていいって、そう笑って目の前の頭をそっと撫でる。
オレの料理で喜んでくれるなら、いくらでも作ってやりたくなるものだ。


そして勇気がそっと顔をあげると、さらに可愛い光景を目の当たりにしてしまって思わず吹き出してしまった。

そっと近づき、吹き出した原因である口許のそれを舌でちろりと舐めとれば、ぽっと火が燈ったようにほんのりと赤に染まる柔らかな頬。

「つつつつなみさん…!」
「おべんとついてたぜ」
「だ、だからってそんな…手で取ってくれれば…いいの、に…」

だんだんと尻窄まりになっていく、可愛い後輩でかつ大切な恋人である勇気の反応がいちいち可愛くて、思わずぎゅうっと力を込めて自分より一回り小さい体に抱き着いた。











end









*****

\Happy 綱立Day!/
思えば綱立にはまらなかったらイナイレにはまっていなかったかもしれない、そんな私にきっかけをくれた二人のお祝いができて嬉しいです。
二人で下宿生活みたいな雰囲気で読んで頂ければイメージが湧くのではと思います。綱立は日常シーンがとてもよく似合う二人だと思います。
綱海家は女は小さな民宿を経営して、男は漁師という家訓みたいなものが代々受け継がれてそうなイメージです。
あと綱海さんがおべんとっていうのがなんだかかわいいと思いません?←


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