dolce text | ナノ
きみひとりしかいない
*エドガー女体化 口調いじってます
未だ幼い頃の事だった。 先日仕立て屋を呼び、有力貴族の家柄で催されるようなパーティー用にと両親が用意してくれた正装を身に纏い、両親に手を引かれて向かった貴族の中でも豪邸と呼ぶに相応しい屋敷。
そこの広い庭園で、出会ってしまった。
よく手入れされているであろう綺麗に咲き乱れる花を慈しみ、愛でる少女。 こんな美しい庭園は見た事がないと言い切れるくらい綺麗に整えられた花をも引き立て役としてしまう、一輪の青い薔薇のような彼女。角砂糖をそのまま口に含んでしまったような感覚に陥りそうなくらい柔らかく甘く微笑むその少女に、思わず見とれてしまった。
太陽の光を存分に浴びて艶めく絹糸のような蒼い長髪、緩やかにカーブを描く長い睫毛、この世の汚れなど一切知らないと言うように純粋な光を宿す宝石のような碧い瞳、白く透き通るような肌、ほんのり紅が乗った頬、整った愛らしい笑顔、花を大切に扱っているようにゆっくり動く長細く綺麗な指。 彼女の何もかもがこの世の華麗な物だけを集めたような繊細さを持っている。 今思えば、一目惚れだった。
そんな熱視線を送るこちらに気付いたらしい彼女は、こちらに向かって微笑み、立ち上がり綺麗な長い髪とお召し物のドレスを緩やかに揺らしてこちらに歩み寄ってきた。 少し恥じらいを含んだ表情で、桃色の小さな唇を開く。
「…はじめまして、あなたのおなまえは?」
鈴が鳴るようにか細く優しい声は、それでいて凜としていた。
それが俺とエドガーの出会いだった。
その愛らしい幼さはすっかり消え、それ以上に淑やかで可憐な淑女になった彼女の美しさは今でも健在である。よくファンタジーな物語に出てくる誰でも想像ができるお姫様のイメージは、まさしく彼女エドガーと言っても過言ではないと思う。
ではその麗しい姫に手を差し延べる王子様は誰なのだろうか。姫を幸せにすることができる、姫と結ばれる王子様は。 自分で有って欲しかったし、他の誰にも譲る気は毛頭ない。 だがそれを選び決定する権利を持ち得るのは姫であるから、自分は紳士の立ち振る舞いをしてとことん彼女に尽くすのだ。
でも彼女は純粋無垢すぎて、俺がこんなに醜い感情を抱いている事なんて欠片も知らないんだろう。
「フィリップ」
その綺麗な声で名前を呼ばれる幸せ、君の隣に座れる幸せ。傍にいる事のできる幸せ。
「あのね、私……好きな人が出来たみたいなの…」
最もその口から聞きたくないと願い続けた台詞が吐き出されて、幸せで夢心地だった表情が一瞬にして硬直してしまった。それに気付く事もなくエドガーはほんのり頬に赤を差して俯きがちに続ける。
「こんな想いは初めてなの。だからどうすればいいか解らなくて…フィリップは知ってる?」
恥ずかしそうに小首を傾げて尋ねてくるエドガーには、罪なんて一切ないと言うのに。
「…フィリップ?」 「あ、あぁ…すまない。知っているよ」 「本当に?!」 「うん、こうすればいいんだ」
君がそんなに美しいからいけないんだ。君が可愛らしく微笑むからいけないんだ。君が純粋無垢すぎるからいけないんだ。君がこんな俺を易々と信頼するからいけないんだ。
すぐ近くにあった柔らかな唇を自分のそれと重ねた。それは我ながら素早い動作だった。
姫が俺を選ばないから、俺は少しばかり強引な手を使うんだ。そうして俺は、姫を傷付けてしまうんだ。
俺は王子様になれなかった。
きみひとりしかいない
俺のお姫様は、君しかいないというのに。
君の宝石のような瞳を涙で濡らしてしまった自分には、そんな事を思う資格さえないのかもしれない。
end
*****
エドガーは女の子だと絶対育ちのいいお嬢様ですね。そんなエドガーに一目惚れしたフィリップは愛して尽くしているんだけど報われないという一方通行が好きです。フィリップが紳士という理性を脱ぎ捨てて相手に食ってかかって略奪を謀るのもいいですね。もはや誰得でしょうか…
title by 確かに恋だった
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