dolce text | ナノ



勘違い両片思い


*若干綱搭、立春要素有












「なぁ、お前はどう思う?」

芝生に腰を下ろし両足を投げ出した俺は、後ろの両手に体重を傾けて空を見上げながら隣に座る搭子にそう尋ねた。まるで俺の愛する海みたいに、どこまでも広く、深く、そして青々とした空を見上げても、俺の悩みが晴れる事はない。

「どうって…それが“普通”なんじゃないのか?」

私はそういうのに関してリカみたいに詳しい訳でも興味がある訳でもないからよくわからないけど。
そう言って搭子も空に視線を移した。俺は視線はそのまま、体を芝生に寝転がらせて後頭部で両腕を組む。

「だよなぁ…」

はぁ、と溜め息を零せば視線をこちらに向けられる。

「で、綱海はどうするんだ?伝えた方がいいんじゃないのか?」
「…それが出来んならとっくにしてるっつーの…」

それをしないのは、きっとあいつはあいつが好きで、俺みたいなやつに、しかも男に告白されても、優しいあいつにとってそれは迷惑になるだけだろうから。

「ふぅん…私にはよくわかんないけどさ、決めつけるのはまだ早いと思う。ほら、よく円堂も言ってるだろ…諦めたらそこで試合終了だって。あと、」

「悩んでんのはあんたらしくない」

そう笑って見せる搭子にびしっと言われてしまった事は、確かにその通りだった。
空を仰いでいても気持ちが俯いてたら晴れるものも晴れない。まさに今の俺はそれだった。

ふと、少し離れた所から搭子を呼ぶ木野の声がして、搭子が立ち上がる。

「じゃあ、私は行くから」
「おぅ、サンキュ、搭子」





「やっぱり…あの二人仲いいよな…」

遠巻きに見かけた光景に思わず俺はベンチでうなだれてしまう。そんな俺の隣に座る音無さんは、やっぱり気を使ってくれているみたいで。

「大丈夫だって!あの二人は単に友達として仲がいいだけ、それに搭子さんは無意識ながらにもキャプテンに好意を寄せているようだし!」

ね、と微笑んだ表情を向けられ問われたけれど、俺の心はまだもやもやしたままだ。


音無さんにこの感情がばれたのはつい二週間前。

ずっと視線で追いかけていたからもしかしたらって思って…やっぱりそうだったんだ、よかったら相談に乗るよ。
目を輝かせてそう言われてしまえば断れる筈も無い。
流石はマネージャーと言った所だろうか、見破るだけじゃなく相談にまで乗ってくれ、そして練習メニューが二人きりになるようにこっそり謀ってくれた。

音無さんには感謝しても仕切れない。だけど、どうしても心にひっかかる事があった。


「でも…男の俺がこんな感情抱いてるって知ったら、絶対に迷惑だ…」

一般的に、男に好きですと言われて誰が喜ぶだろうか。
はぁ、と思わず零れた溜め息。
そんなすっかり弱気な俺に音無さんに改まったように立向居くん、と呼ばれる。

「そんな事ないよ。好意を寄せられて嫌な人はいないから、優しい綱海さんならきっと…喜んでくれるって!」
「…そうかな?」
「うん、だから…」

いきなり背中をばしーん!と思いっきり叩かれ、思わず驚きでびくりと体を震わせてしまった(そこまで痛みはないけれど)。同時に勢いで俺はベンチを立ち上がった。

「綱海さんはちょうど今一人であそこにいる。男なら、びしっと告白してきなさい!」
「は、はい!」

その力強さに圧倒されてほぼ条件反射で返事をしてしまった手前、もうベンチへは戻れない。

こうなったら、当たって砕けろだ!立ち向かえ勇気!




勘違い両片思い



心臓がばくばくする。この方十余年生きてきた中でもかつてない程速い脈拍。顔どころか耳まで真っ赤だろう。
あの、と言ったはいいが、先の言葉が中々声にならない。

「…どうした、立向居?」
「あの…その……迷惑かもしれないんですけど…」
「何だ、言ってみろ。別にお前なら迷惑も何もねぇからよ」

兄がいたらこんな人だといいなと皆が思ってしまうくらいどこまでも優しく器の大きい綱海さんは、にかっと笑ってそう言う。
その器に俺のちっぽけで重い想いを受け入れてくれるなら、それほど嬉しい事はないだろうに。

「……すき、です……綱海さんが…」
「…えっと……つまりそれは…」
「…恋愛的な意味で、です…」

あぁ、言ってしまった。俯いてるからわからないけど、きっと綱海さんは困ったように笑ってるんじゃないかな。だってほら、その証拠に沈黙しかない。きっと綱海さんは優しいから俺を傷つけないようにどうすればいいか悩んでるんだ。
そう思った瞬間、頬に柔らかく少し擽ったい髪の感触、肩に乗りかかる違和感。

「好きだっ…俺もお前の事、好きだ…!」

耳許で少し震えた声がして、そこで初めて抱き着かれている事を把握した俺は、余計に顔を真っ赤にして、肩に乗る彼のユニフォームの袖をきゅっと握った。











end









*****

綱海は搭子ちゃんに何となく、たちむは春奈ちゃんにバレて恋の相談をしているんですが、それをお互いが仲良しと勘違いしてると面白いなと思い勢いで書き上げてしまいました。
綱搭、立春好きな方には申し訳ないと思ってます。でも後悔はしていない。綱海と搭子ちゃん、たちむと春奈ちゃんは友情派です。
あと搭子ちゃんと敬語じゃない春奈ちゃんの口調がわからないです…←
春奈ちゃんはこれくらい潔いとかっこいいですね!


menu