dolce text | ナノ



『みどり』の日



「おはよう、リュウジ」

今朝、目が覚めると何故か目の前にヒロトの顔があった。
仰向けの状態だったので、つまりヒロトは覆い被さるように俺の上に乗っている。そして額の髪の毛を右手で除けて、そこにちゅ、とわざとらしい音を起ててキスを落とした。

寝起きたばかりで頭がまだよく回らず、状況を把握出来ない。


「…ひろ…と…?」

まだ重たい瞼を擦りながら、目の前の緑の瞳を見つめる。
右手でその垂れ下がる赤い髪を一束ほど弄ると、ヒロトは微笑んで俺の胸の上の掛け布団に頭を乗せた。ちょうど心音が聞けるような状態のヒロトは、リュウジの心臓動いてるよ、とさも当然の事を言う。

その辺りでやっと頭が少しずつ働いてくれた。


「…ってヒロト、何でここに…?!」

半ば強引に起き上がるとヒロトが頭を退け、まだ布団の中の足の上に覆い被さるようにしてさっき以上に近くに迫ってきた。

「今日は緑の日、つまり緑川の日だから、リュウジに一日くっついていようと思ってね、」

早起きしたんだよ、と楽しそうに言った。

「緑の日だからって関係ないって…」
「関係大ありだよ、緑を大切にする日なんだから。苗字もそうだし髪の色も緑なんだから」

そういう訳だから、と今度は左頬にキスをされた。

「!…もうっ…朝から…」

キスされた部分を押さえながら反論すると、赤くなった君も可愛いよと囁かれ、余計に顔が赤くなったのを自分でも感じた。


そしてヒロトは本当にどこまでも着いてきた。移動するには必ず手を繋ぎ、落ち着いているときは前や後ろから抱き着いて来る。

「トイレまで入ってくるの…?!」
「手伝ってあげるよ」
「ドアの前で待っててよ…恥ずかしいから!!」

「まさかお風呂も…?!」
「いいじゃん、昔は皆で仲良く入ってたしさ」
「それはおひさま園の時でしょ…!!」
「恋人同士なんだから、一緒に入ろうよ」
「!…こ、恋人同士だから余計恥ずかしいんでしょ…!」


そんな訳でヒロトにとことん付き纏われ一日がもうすぐ終わろうとしていた。

「今日は楽しかったね」

どこまでヒロトはくっついてくるのか解らないが、今、俺のベットに一緒に潜り込んでいる。

「えっ…ヒロトはただ、ついて来てただけだよ…?」

ヒロトの方に引き寄せられ、痛くはないけれどぎゅっと強い力で抱きしめられている。


「それでも、リュウジとずっと一緒で楽しかったよ」

そう言って頬に手を添えられておでこにキスが降って来た。今日、もう何度したことか解らない、触れるだけのキス。
そして唇へは、噛み付くようなキス。触れるだけでなく口内を掻き乱して舌を絡められる深いキス。されるがままにしつこく探られる。そろそろ息が苦しくなる頃、やっとそれは銀色の糸で繋がれてようやく離れる。
眠気か、それとも今のキスのせいか、目が半分くらいしか開かず、少し潤んでいるのが解る。

繋がれた銀色の糸をぺろりと舌で舐めとり、ヒロトは子守唄よりも優しく、呟いた。


「おやすみ、リュウジ」

そこから俺は夢か現かの境界線をさ迷い、心地のよい眠りに就いた。



(よい夢を、)











end









*****

5月4日の23時に思いついたネタ。遅すぎる。
おはようからおやすみまでヒロトがべたべたしていればいいと思いました。所構わず抱きついてちゅっちゅっして、それにいちいちリュウジが赤くなって、思わず可愛いなぁ…とヒロトは楽しんでいると思います。お風呂は一緒に入ればいいよね^^


menu