dolce text | ナノ



とけていく、



雪がちらつくのも時間の問題なくらい、気温が低いある日。
そんな日だからこそ、居間に設置されたこたつに二人で潜り込んでぬくぬくとしながら、冷たいアイスを食べるのだ。

「こたつって不思議だよね」

大福をかたどったようなアイスのパッケージを開けながら、緑川はそう呟いた。同じくコンビニの袋から先程買ってきた容器に入ったアイスを取り出しながら俺も答える。

「なんで?」
「冬なのに、寒いのに、冷たいもの食べたくなるから」
「確かに食べたくなるね。だから買いにいったんだけどさ」

先程急にアイスが食べたいと言い出した緑川と共に、少し近所のコンビニに出向いただけだというのに、手はもちろん、耳や鼻や頬がとても冷たくなっていた。
それもこたつに入って暫くすれば体温を取り戻していったのだけれど、そんな寒い日に冷たいものを食べたくなるこたつの効果は、確かに不思議なものだった。

いただきまーす!と元気に言って、緑川はその大福をかたどったアイスを頬張る。俺も容器のふたを外し、付属の木製の簡易スプーンでアイスを掬って口に運んだ。

その緑川の美味しそうに食べる顔といったら、本当に。

「ねぇ、そんなにおいしい?」

つい聞いてみたくなってしまうくらい本当に美味しそうにアイスを頬張るのだ。

「うん、すごいうまい」
「よかったね」
「ヒロトも一口食べる?」

その幸せそうな表情に口許を綻ばせていると緑川はそんな事を尋ねてきて、仕舞いには俺の口許へはい、とアイスを持ってきて。

「ほら早くしないと落ちるだろ」
「…い、いいの?」
「うん。ヒロトのも一口ちょうだい」

言われるがままに差し出された食べかけのアイスをひとかじり。
口内に広がるのは甘いバニラともちもちとした触感。

まさか彼からそんな事をしてくれるだなんて。もちろんの事ながら、彼は間接キスだという事には全く気づいていないだろうが。


そして口内に広がる甘さを味わいながら、俺はある事を思いつく。

「俺のアイスも欲しいんだよね?」
「欲しい!」
「だったら、」

木製の簡易スプーンで一口分のアイスを掬い、それを自分の口に含んで準備完了。融けないうちに、緑川にそっと距離を縮めて後頭部をそっと支え、そしてその桃色に縁取られた可愛らしい唇にそれを優しく重ねた。

歯列の間に舌をそっと滑り込ませて、自分の舌で融けかけた一口分のアイスを彼の口内へと送り込む。

要するに口移しだ。


舌を絡め、アイスが溶けて消えてなくなる頃にそっと唇を離した。


「…ばかヒロト…」

羞恥からか頬をほんのり赤く染め、悪態をつきながら俯く緑川がやっぱり可愛らしくて。

「今更恥ずかしがる事ないだろ」

すっかり一線をも越えているというのに相変わらずいちいち反応が初々しい、そんな愛おしい緑川の頭をそっと撫でた。




とけていく、



(その行動に、仕種に、表情に、)


「早く食べないとアイス融けるよ」
「…分かってるって!」


(アイスのように、心もとけていく)











end









*****

2011年1月拍手文でした。
某方よりネタ提供ありがとうございました。


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