dolce text | ナノ
神様はアンフェア
「木暮くんは、…両親がいないんです」
なんとなく、『近い』という感じがした。あの無邪気な笑顔を浮かべる瞳の奥深くに一瞬だけ淀んだ何かが垣間見えたとき、そう思った。
不思議に思って彼と仲の良いマネージャーの音無さんに聞いてみたら、「本当はこういう事、あまり本人のいないところで話すべきではないんですけど、秘密ですよ」と言ってそっと教えてくれたのだ。
どうして教えてくれたかといえば、やはり俺も同じ境遇という事を知ってだろう。 ただ彼との相違点は、俺は幸いにも父さんがお日さま園を創設してくれたおかげで、同じく何かしらの理由で孤児となった“仲間”がいた、という点。 キャンプをあんなにも羨ましがったのは、彼が今までの生涯そのような仲間に巡り逢う環境がなかった、というところか。
「でも、ヒロトさんが木暮くんの事気にするなんて珍しいですね。最近何だかよく話してますし…」 「そうかい?まぁ、色々あってね…」
例の河童と出会い森をさ迷って無断外泊し、さらにその河童たちとサッカー対決をした、などという話は結局誰ひとりとして信じてくれなかった。 それ一連については俺と木暮くんだけが体験し、共有している為、自然と以前よりも話すようになったのは確かだ。
「ヒロトさんって意外と面倒見がいいですよね。木暮くんといい、緑川くんといい」 「緑川はもともと兄弟みたいなものだし、…何だか放っておけなくてね」
鋭いところを突かれて、そう言って苦笑いするしかなかった。
今日も元気に悪戯をし、怒られてあちこち逃げ回る姿を、俺は休憩中のベンチで眺めていた。そんな彼をまるで弟のような感覚で微笑ましく思う。
しばらくして、走り回った彼が荒い呼吸でフィールドに仰向けになっているのを見つけた。 カエルのキャップがついたドリンクを持ち、寝そべった彼へと近付いて上から覗き込むようにそれを差し出す。
「悪戯もほどほどにね」 「…ヒロトさん、」
むくりと起き上がりそれを受け取ると、喉を鳴らしてそれを飲み込む。なんだかんだで喉が渇いていたらしい。 持ってきて良かったと笑みを綻ばせながら、彼の隣へ腰を下ろす。
「さっき、円堂くん達に話してきたんだ。キャンプのこと」 「それで?!キャプテン達、なんて言ってた?」 「うん、大会が全部終わったら日本にいる皆も呼んで、やろうって」
よかったね、と笑いかければ、目をきらきらと輝かせ、先程の疲れていた表情はどこへやら、彼は無邪気に跳びはねた。
「ほんとに?!うわぁ…楽しみだなぁ…!」 「初めてだもんね」 「うん……ありがとう、ヒロトさん」
こう素直に謝礼の気持ちを述べられると、普段悪戯っ子の彼もやはり可愛いと感じる。
「でも、どうしてそこまでしてくれるの?」
疑問に思うのも無理はないだろう。俺がその話をしたとはいえ、最近話すようになったのだ。
「何となく…木暮くんが俺と『近い』感じがしてね」
何が『近い』のかを明確に言葉で表さなかったが、何かを感じ取ったらしい彼は先程と同じように隣に腰を下ろした。
「ごめんね、音無さんから聞いたんだ。俺も、知っての通りお日さま園で育ったから、つまりはそういう事なんだ」
だから、放って置けなくて。 迷惑なお節介だろう。でも、せっかくチームメイトになれたんだから、少しでも自分に出来ることがあればと思って。
「別にヒロトさんが謝る事じゃないだろ。信じられる仲間がいる事を雷門に教えてもらったから、俺は大丈夫だよ」 「うん、そうだね」
俺もそれを円堂くんに教えてもらった一人だから、今イナズマジャパンで共に闘える事を誇りに思っている。
神様はアンフェア
(けれど、とりあえず今は幸せに過ごしてます)
ベンチの方から、練習再開すんぞー、とすっかり聞き慣れたキャプテンこと円堂くんの声がして、俺と木暮くんは顔を合わせて頷き、そこを立ち上がってベンチの方へと歩みを進めた。
end
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100話の二人が可愛くて気付いたら執筆してました。お兄ちゃんなヒロトは木暮くんを弟みたいに気にかけていたらいいです。 緑川が出てきたのは完全に私の趣味です
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