dolce text | ナノ



ひなたぼっこ



*いまいちキャラが掴めていません。キャラ崩れしてても気にしないという人向け。

















「せっかくこんなあったかい天気なんだから」

そういわれて手を引かれるがままに連れられ着いたのは、芝生の茂った日の良くあたる河川敷だった。雲ひとつとして見当たらないくらい晴れ晴れとした空に輝いている、地上に光を降り注ぐ太陽が眩しい。
季節はまだまだ冬だというのにそれを感じさせないくらい、まるで春の訪れを感じさせるような暖かさだった。羽織っているコートに若干の熱さを感じる。

「天気がこの場所とどう関係するのだ」

どうしてこんな所へ連れて来られたかは全く知らないし、分からない。俺が尋ねると、天に両手を挙げ背伸びをしていた円堂カノンが親しげに微笑みかけてきた。

「君とひなたぼっこしようと思って。ここなら日が良く当たるし芝生に寝転がれるし」

すっごく気持ちいいんだよ、
そう言って少し傾斜のある河川敷の芝生を少しだけ駆け下り、彼はこちらを見上げる。

「こっちこっち!」

無邪気な表情をこちらに向け呼びかけられ、そしてそれに自然と歩みを進めた。以前までの自分だったら、きっとこんな事は無駄だと決め込んで歯牙にも掛けなかっただろう。だが『円堂』とやらと出会ってからは、全くどういう訳か不思議と引き寄せられるのだ。

「バダップはひなたぼっこした事…なさそうだね」
「あぁ、ない」

尋ねられて直ぐさま肯定する。『ひなたぼっこ』というものをした記憶がなかった自分は、今まで暖を取るなら電気と電気機器があればそれで十分だと認識していた。
物心がついた頃には既に英才教育を受けるのが当たり前、というような環境で育ってきたのだ。ひなたぼっこというものとは随分縁遠かった。




「この辺かな、」

よいしょ、と呟いて彼はその場にと腰を下ろし、そして立ったままの俺を見上げ隣の芝生を掌で叩いて見せた。恐らく座れという事なのだろう。

「しないの、ひなたぼっこ」
「…座るのか」
「もちろん!」

ゆっくりと芝生に腰掛ければ肩が触れる程度の至近距離で、彼はその俺の様子を見て至極満足そうに笑う。冬特有の吹き荒れる北風も、太陽をさえぎるような雲も、今日はない。
暖かさに脱いだコートを綺麗に纏め、彼が居る隣とは反対側にそのコートを置いた。

隣て芝生にごろんと寝転がる彼に、おまえもー、と間延びした声で服の背後を引っ張られた。振り向いて俺は浮かんだ疑問を口にする。

「何故寝転がるんだ」
「こうした方が、たくさん太陽の光を浴びれるんだ。それに気持ちいいよ」
「それが『ひなたぼっこ』というもの、なのか」
「そうだよ」

そして彼は、なかなか芝生に寝転がらない俺の肩や腕を掴んで体重を掛け、されるがまま倒れこむように芝生に体重を預ける。目の前に広がるのは澄み渡った空と、陽気を降り注ぐ太陽、ただそれだけだった。
俺から離した両手を後頭部で組んだ彼は、そっと瞼を下ろして深呼吸をする。

「俺、サッカーがうまく行かない時や何か落ち込んだとき、天気がいいとこうやってひなたぼっこをするんだ。太陽から元気を分けてもらえる気がして…不思議とまた頑張ろうって気持ちになれるんだ」

空に向かって呟くように放たれた言葉にどう反応すべきかなどと考えていると、ねぇバダップ、と名前を呼ばれる。そちらを向けば、幼さの残る笑顔があそこの空に輝く太陽にも負けないくらい、輝いていた。

「ひなたぼっこって、気持ちいいでしょ」

そう尋ねられ、俺は再び空を仰いた。彼の言った「元気を分けてもらえる」という事は俺には良く分からない。だが確かに、青空の下の芝生の上に寝転がるというのも、全身に太陽光を浴びるというのも、無機質なシーツが敷かれたベッドとは違っていて、

「悪くは、ない」

そう思えた。

そしてやはり、円堂カノンは不思議な奴だとも思った。





***





それから俺は芝生に寝転んだまま、ひいじいちゃんのノートの事、サッカーの事、話したい事を沢山話した。たまに素っ気無く返ってくるだけの返事だったけれど、俺はそれでも十分楽しかった。バダップの事も、例えば無表情なその顔の本当に些細な変化だとか、言葉遣いだとか、少しだけだけれど知れた気がした。


「それでね、」

話を続けようとした時、隣から静かな息遣いが聞こえてそっと視線を移す。するとワインデッドの瞳は閉じられ手は無防備に芝生に投げ出されていて、胸が静かに上下に動く。

「バダップ……もしかして、寝ちゃった?」

そっと起き上がってその顔をまじまじと覗けば、瞼を縁取る長い睫毛が人より黒っぽい肌に映えて印象的な、とても綺麗な寝顔に見惚れてしまった。
凛々しいと思っていたその顔立ちは寝顔だと少し幼く見え、思わず俺は口許を綻ばせた。




ひなたぼっこ



「よっぽど気持ちよかったんだね…」

バダップが目覚めるまではしばらく、この貴重な寝顔を眺めていよう。











end









*****

バダップはひなたぼっこやった事がなさそうだな、と思い書き上げてしまいました。暖かさに気持ちよくなって寝ちゃうバダップとかすごく愛しいです。猫みたいに丸くなって寝てればさらに愛しいです。カノンくんが髪とか触ってればいいです。
キャラが掴みきれてないので、大目に見て下さると有り難いです。バダップをたくさん書いて慣れたいです


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