dolce text | ナノ



希望の一筋



*カノンとバダップです
*映画の後の話

















ミッションは失敗に終わった。
強制送還で八十年後に戻ってきた俺達だが、ヒビキ提督は一切の罰を与えなかった。何故ならそれが決して情報を他人に知られては極秘任務であった為だ。
俺は実際過去に行った事で感じた事、円堂守という人間から感じ取った全てを提督に伝えたが、任務失敗によって信頼性を失ってしまった為、殆ど耳を貸しては貰えなかった。

それならば、俺達がやるしかない。

そういう考えに至ったものの、ならば何をすればいいのか、どうすればこの国の未来を変えていけるのか、といった具体性を含んだ事は一切判らなかった。共にミッションを遂行したエスカバやミストレにも尋ねてはみたが、やはり答えは出ずに話は平行線の一途を辿るばかりだった。



日が西の空へと傾き橙へと姿を変え始めた街がよく見渡せるここへ、気がつけばやってきていた。

極秘任務の為に何度も見た映像の中に最もよく出てきたここは、八十年前の姿とは変わってしまっているものの、原型はまだ留めていた。空に突き出すように建てられた鉄塔が夕日を浴びて赤く照らされていた。

すると耳が拾った微かな音。緩く鈍いそれがする方を見遣れば、この空と同じ色のバンダナを額にした少年が一人、胸へ膝へ足元へと器用に白と黒のボールを、蹴り上げては受け止めて、そしてまた蹴り上げて、と繰り返す。

「…円堂カノン」

任務失敗の原因の一部であり、任務の対象であった円堂守の子孫であり、そして自分に『勇気』を教えてくれた少年は、呼ばれた声に気付きこちらに顔を向けると、驚いたようにボールを地面へぽとりと落とした。

「オーガ…!どうしてここに…」

無駄を嫌う自分が何故ここに足を運んだのかを少しばかり納得してしまった。俺は俺を諭した円堂守の血を受け継ぐ彼に聞けば、何か解決の糸口が見つかるのではと思っていた、のかもしれない。憶測で行動する事も良いとは言い難いが、手詰まりなのも事実。

敵対すると思ったのか、身構える目の前の彼に、俺は単刀直入に問く。


「聞きたい事がある」
「へ……オレに?」

「無気力思想が広がったこの国は、一体どうすれば戦う勇気を取り戻すと思うか?」


突然投げかけられた質問に、円堂カノンはうーんと思考を巡らせるように首を傾げる。
暫くの沈黙の後、彼は真っ直ぐこちらに瞳を向けた。それは確かに円堂守の血を引いている事を静かに物語らせていた。

「うーん…難しすぎてまだ分からないな…でもその答えは、よく考えて少しずつ出していけばいいと思うよ」

こちらに敵意がないと理解したらしく、満面の笑顔をこちらに向けて円堂カノンは言った。

「そうか」

そう呟いて俺は背中を向け、その狭い広場を去ろうとする。少しでも期待を宿してしまった事が無駄だったのか。

「バダップ、ちょっと待って!」
「何か用か?」

その呼びかけに立ち止まり肩越しに顔だけ振り返って返答をすれば、彼は地面に転がっていたボールを拾い小脇に抱え、そしてこちらへ走ってきた。

「ねぇ、少しでもいいから話しよう」
「君と話をした所で時間の無駄だ」

見上げられた顔に、冷たく突き付けるように吐いた言葉。普段これでたいていの者は身を引くが、彼はそれに全く動じずにいた。


「無駄なんてないよ。話の中から何かを得られる事だってある。ここで今オレとお前が出会った事も無駄じゃない。何よりもオレ、バダップを知りたいんだ!」

「何故そう言い切れる」

「人ってさ、話をしてみて初めて分かる事、知る事、気付かされる事があるでしょ?逆に考えれば、話をしてみないと分からない事だってある。お前だって、ひいじいちゃんと話して気付いたからそう考えてるんでしょ?」


その言葉を聞いて、思わず納得した気持ちになった。根拠も理由も理論も無いと言うのに、逐一それが直接胸へと突き刺さってくるのだ。
見方によればそれは『呪文』であった。でも見方を変えれば心を奮い立たせる作用がある力強い想いそのものだった。

理解はできない、だが納得はできる。


前に向き直り思わず微かな笑みをふ、と零す。自分は何を焦って答えを無理に出そうとしていたのだろうか。考える余地はまだあるというのに。
そしてそのまま、下りの階段に歩みを進める。

「あ、待ってよバダップ」
「次の機会があれば、君と話をしてもいい」

『次』があるかは分からないが、もし再び顔を合わせるような事があれば。
歩みを進めながら答えれば、背中に掛かる夕日よりも明るい声。

「うん…またね!」




希望の一筋


ミッションは失敗に終わった。
だがそれも無駄でなかったと言うならば、未来の行く末を案じるばかりではなく、信じてみたいと思えた。











end









*****

衝動で書き上げでしまいました。
もう本当に二人とも可愛らしくて大好きです。
バダップは円堂くんに『勇気』を教わったものの、それをどうしたらいいかを悩んでたりするといいと思います。それでカノンに尋ねれば分かるのではないかと思って聞いてみるけれども、また円堂の血筋、つまりカノンくんに納得させられてしまう感じ。
需要と口調は気にしないです。案外カノンくんの方が口調難しいですね…。また書く機会があれば書きたいです。
バダップ可愛い…


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