dolce text | ナノ



手を伸ばせば届く距離



*アツヤと士郎
*アツヤ生存、白恋サッカー部所属














「アニキ、置いてくぞ」

玄関に座り、踵を靴に収めたオレはリビングの方を振り返りそう叫んだ。サッカー用の道具一式やら教科書ノートやらを無造作に押し込めたスポーツバッグを片方の方にかけ、オレは立ち上がった。

「おい、アニキー!」
「待ってよアツヤ…」
「早くしねーと朝練遅刻するだろ」

そう言えば慌しくリビングから出てきたアニキは、中身が綺麗に整頓された俺とお揃いのスポーツバッグに手に持った物を入れ、そしてのろのろと靴を履き始める。

アニキは昔からこんな調子だ。サッカーをやっている時以外は、ふわふわとした雲のようにどこか天然気味で行動がゆっくりで、どこか覚束無いのだ。オレと対称的にきちんとしているが。
サッカーをやっている時だけは、それこそまさに人が変わったように素早い動きで敵からボールを奪い、オレに繋げてくれるのだ。

そんな普段は頼りないアニキが靴を履き終えるのを確認し、オレは半ば強引に手を引いて玄関を飛び出した。


もう冬も随分近くなってきた。ここ北海道はそろそろ雪が降ってもおかしくない季節。

そんなある朝の早い時間に、アニキの手を引きながらオレは走り、アニキもそれにただ黙って着いて来る。
吐く息が白い。鼻先や耳が冷たくなっている。家から出たときよりも確実に体温を奪われていた。手袋もしていない外気に晒されているこの手は次第に体温を失っていく。

でも、アニキと繋いだ手は、アニキの手だけは、とてもあたたかかった。



「ふー…何とか間に合ったぜ…」

寒い寒い冬の訪れがすぐそこに待っているような外気を走り抜け部室に駆け込めば、既にユニフォームに着替え終わっていた皆がいた。
準備万端でもう練習を始めようとしていたらしい。待たせるのも悪いからとアニキは皆に先に練習してもらうように言い、それに同意した皆は先に身体を温めておく事にすると部室を去っていった。


「よかったね、何とか間に合って」
「よかったねじゃねーよ…アニキが寝坊したからだろ」
「でも、アツヤだって目覚まし鳴っても起きなかったでしょ?」
「う、それは…」

スポーツバッグからユニフォームやスパイクを取り出しながら、オレたちも準備を始めた。
制服を脱げば少し肌寒い部室、ぶるりと震えながらもユニフォームへ手を通していると、隣で同じく着替えるアニキが突然ぼそりと呟いた。

「あ、そういえば」
「忘れ物でもしたか?」
「うん、忘れ物…かな…」

腕だけユニフォームに通した体勢でそちらを向けば、忘れ物をしたと言ったにも関わらずその表情は実に柔らかく微笑んでいて。また何か企んでもいるのだろうか、そう思った瞬間にぐっと距離を縮められる。

「アツヤ、おはよう」

いつもの調子でにこやかにそっと囁いたアニキは、ちゅ、と音を立てて唇が口許にそっと優しく付けられた。

「朝忙しかったもんね」

そう微笑むとすぐさま離れて行き、中断していた着替えの続きへと取り掛かった。


そう、いつも、毎朝、朝だけでなく寝る前もしていること。

母胎にいる時から、生まれた時から、いつも一緒にいる双子のオレ達にとってはキスくらい至極当然の事なのだ。

不意打ちのせいか、それとも…
理由は定かではないけれど、思わず動きが固まってしまったオレに気づいたアニキはくすくすと笑った。




手を伸ばせば届く距離



これが当たり前の、オレたちの日常。

(アツヤって、ときどき可愛いね)
(アニキはときどき天然だよな)











end









*****

初アツシロアツ?でした。需要とか知りません。←
アツシロは読む側だったのですが、やはり一回書いてみたくなるものです。双子いいです双子。双子は日常茶飯事ちゅっちゅしててもいいんです?一緒のベッドに寝ててもいいんです?
アツヤと一緒にいる時の士郎は若干ぽわぽわってした天然さんなイメージがあります…ワンテンポ遅い感じ。アツヤは晴矢にかなり近いイメージがあります…何ででしょう?でもおにいちゃんっ子だと可愛いですよね^^
また機会があったら書きたいものです…!!


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