dolce text | ナノ



甘いひと時



*フィリップ×エドガーです
*二人が幼馴染み設定

















今日は見事な快晴だというのに練習は休みである。それは、昨日も他国との対戦で苦戦しつつ何とか勝利を収めた我らナイツオブクイーンのナイト達が連日の試合続きに疲労困憊だと監督が悟り、今日は身体を休める目的で休日になさったからだ。

だから私は、ここイギリス街の一角にあるナイツオブクイーンの屋敷の少し小さめの庭園で、ゆったりと読書をしているのだ。
読書は知識を貯えるための大切な紳士のたしなみのひとつ。

私の屋敷には及ばないにしろ、庭師が手をかけているこの庭園の色とりどりの花や緑も美しい。


ライオコット島に来てからは殆ど毎日練習に明け暮れていた為、こんな優雅な日中を過ごす事はここ最近では珍しい。と、本がちょうど切りよくなったので、目の休息に栞を挟んで本を閉じ白いテーブルクロスの掛けられたテーブルへ置く。

すると、テラスの方からガラスドアの開く音がした。そちらに目を向ければ、ティーセットらしきものを携え微笑を浮かべながらこちらに向かってくる私の幼馴染み、フィリップがいた。
ティーセットらしきもの、とは上に白とピンクを基調とした花柄の薄い布が被されてあるからだ。

「読書の邪魔をしてしまったかな」
「何、気にする事はない」
「喉が渇いているんじゃないかと思ったんだが…」
「あぁ、頂こう」

そう返事をするとさらに笑顔を向けた幼馴染みは、被せてあった薄い布を取りティータイムの準備をし始める。私は先程置いた本をフィリップとは反対隣の椅子へと移動させ、彼の慣れた手つきを眺めていた。



フィリップが選ぶ良質な茶葉はどれも深い味わいがあってよいものだ。
沸騰したての湯をポットに注ぎ、茶葉を充分に蒸らす。葉が開ききったところで予め温めておいたティーカップへそれを注げば、ふんわりと漂うその紅茶の匂い。
チームメイトであるゲイリーが作ってくれたという絶品のスコーンも共に出されて、今日は何と言う素敵なティータイムなのだろうと思う。

ティースプーン一杯程の砂糖に少々のミルクを入れたティーカップの取っ手を持ち鼻先に近付けた。いい匂いに心が落ち着き、それをそっと口に含む。
やはり紅茶はいいものだ。

隣に腰を下ろしたフィリップとジャムをたっぷりつけたスコーンと紅茶をひときしり味わった後、フィリップは突然話を切り出した。


「エドガー、また頼みがあるんだが」

“また”という言葉に、私は直ぐさま思い当たる節があった。

「料理の味見か?」
「ははっ…さすがエドガーだな」
「幼馴染みの頼みとあらば、喜んで受けよう」

彼の作る料理は、修業の身だというにも関わらず、舌の肥えた私(自覚はある)でさえも思わず舌鼓を打つ程の腕前だ。それなのに当の本人は自信なさ気にしているから私には不思議なものだった。

そっと右側に置かれた綺麗なステンレスのフォーク、目の前に出されたのはディナーのデザートにぴったりなひとかけらのアップルパイだった。

ちょうどよく冷めたまだあたたかさの残るアップルパイを、私はフォークで口に運んでいく。ゆっくりと咀嚼すれば、サクサクとした触感表面のパイ生地の中から溢れ出るようにアップルの熟れた果実が絶妙に口の中に広がる。

世間のアップルパイは砂糖が多くて甘いがこれは甘すぎず、だから余計に素材の味が引き立っていた。


「どうだ…?」

用意されていた紙ナプキンで軽く口周りを拭う私に心配そうな面持ちで問い掛ける幼馴染みに、そっと答えた。

「とても…とても素晴らしいアップルパイだ。フィリップの作るものは絶品な料理ばかりだ。このアップルパイも、ディナーに出すには甘さ控えめでぴったりだろう」

「そうか…エドガーがそう言ってくれて安心した」
「君ならきっと、いい料理人になれるだろうな」
「ありがとう、エドガー」

何、幼馴染みの夢を応援するのは当然の事だ。そう私が告げると、何故かフィリップは一瞬物憂げな表情をして、そして直ぐ、またいつものように微笑んだ。





甘いひと時


例えば、俺は世界が認める料理人なんかになれなくても、俺の料理であなたが笑ってくれるなら。

俺はそれでいいと思ってしまうのだ。


『幼馴染み』という枠組みを越えて、あなたにもっと近づく事ができるのはいつになるやら。
そう思いながら今日も“自分の為”に俺はあなたの隣にいるのです。











end









*****

初フィリエド!需要とかもう知りません。←
フィリエドは前々から気になっておりましたが見る側だったのです。でもこういうティータイムの雰囲気を一度執筆してみたくて…やらかしました。
フィリエドというよりはフィリ→エドみたいな感じですね。ただエドガーさんは無意識のうちにフィリップに恋心を抱いていればいいです。
オーウェン家も本来はバルチナス家並に由緒ある家柄だと思いますが、エドガーの隣に居たいが為にバルチナス家(もちろんエドガーさん限定)に仕えてもいいかなくらいに考えてればいいです。
本当はもっといろいろ入れたかったけれど、また機会がありましたら。…またフィリエド書くのかは不明ですが。
ちなみにフィエド(フィディオ×エドガー)もいけます。←


menu