※注意



インターホンを押して数秒後、出てきてくれた照美くんはどうやらお風呂あがりらしかった。

「……どうしたのリサさん。こんな時間に」
「えっと……、ちょっと、話したいなあと思って」

すごく迷惑なことをしてるのに、照美くんはちっともいやな顔をしないで、 「じゃあ入って」 と言ってくれた。ほんとうは、電話とか、メールとかでもよかったんだけど、わたしはどうしても照美くんの顔が見たかった。そうすれば安心できる気がしたからだ。

「僕の部屋、いまちょっとちらかってるけど、いい?」
「ぜんぜん気にしないよそんなの」

とは言ったものの、以前来たときとは見違えるくらい物が散乱した部屋には驚かざるをえなかった。空き巣に入られたみたいにぐちゃぐちゃだった。 「ごめんね、汚いでしょ」 「あっ、いや、わたしの部屋の方がひどいから!」 なんて、いまはもう大抵のものをダンボールにつめて送っちゃったせいでがらんとしてるんだけど。 「照美くん、……なにかあったの?」 「……ううん、べつに。ちょっといらいらしてただけ」 「大丈夫?」 「もう平気だよ」 照美くんのえがおはいつもと変わらなくて、わたしはほっとした。よかった、照美くんは照美くんだ。

「リサさん、こっち来て」

ベッドに腰かける照美くんに近寄ったらいきなりキスをされたのでびっくりして体が強ばった。照美くんの目はなんだか鋭くて、なんだろうと思っているうちにベッドに押し倒された。 「てる、みくん?」 返事をくれないまま照美くんはやんわりとわたしの胸を揉みだした。 「やっ、ま、待って……」 「嫌」 とても短くて強い言葉にわたしは何も言えなくなる。どうしたんだろう、照美くん?やっぱりなんだかおかしいよ。

「あ、……っん!」
「びしょびしょ、だね」

そんなに慣らされたわけじゃないのにわたしのそこはすんなり照美くんの指を受け入れて、ぐにぐにと弛緩を繰り返す。 「照美、く、どうし――ん、待っ、あ……!!」 耳を塞ぎたくなるくらいの水音。目をつぶっているから照美くんの顔はわからない。 「ふぁっ、んん、てる、みくっ」 「入れたい」 「っえ、?」 「いい?」 「ちょ、あ、ひゃ……」 割って入ってきた彼の質量にわたしは身震えた。照美くん、いったいどうしたのかな。いらいらしてたって言ってたけど、なにかいやなことでもあったんだろうか。照美くんに揺さぶられて、脚がぴくぴくと跳ねる。あ、気持ち、いい。 「照美く――、あ、あっ、……っう、ふぁ」 もうなにがなんだかわからない。ただ無我夢中になって照美くんの背中にしがみついた。わたしは、この人を失いたくない。はなれたくない、ずっといっしょにいたい。

「……リサさん」

照美くんがわたしの名前を呼んだとき、わたしはあたまがぼおっとしていて、身体はちからが入らなかった。

「ごめん」

消え入りそうな声で照美くんは言った。なにがごめんなんだろうなあ。 「はなれたくないよ」 わたしが言ったら、照美くんは首を振る。 「わたしやっぱり残ろうかな。お父さんに頼んでみるよ」 照美くんが眉間にしわを寄せる。そんな顔しても、照美くんはきれいだよ、あんまり意味ないよ。 わたしは目頭が熱くなってくるのを感じた。あーあ、だめだなあわたし。照美くんの前では泣かないって決めてたのに。

「あ、それかさあ、照美くんのお家に居候させてもらえないかな?なんでもするよ、雑用とか。メイドさんみたいな、ねえ、働くから、住み込みで雇って、照美くん」
「リサさん、」
「ベッドはなくてもいいよ、わたしどこででも寝れるから。立ったままでも寝れるし。照美くん、これならいっしょにいられるよ、はなればなれにならなくてすむよ」
「リサさん」

照美くんがいつもより低い声で制するように言った。わたしは彼の方を見てびっくりした。怒っている顔をしていた。 「リサさんは、僕とお母さん、どっちが大事なの?」 そんなの決まってるじゃないか。 「照美く」 「親不孝な子はね、僕、きらいなんだ」 「……きらい?」 「ああ。今のきみは、きらいだ」 ぽたり、白いほっぺたをつたったなみだが、わたしの首元に落ちた。それが、わたしの上にいる照美くんのものだなんて、信じられなかった。 「リサさんなんか、きらい」 ぽたぽた、ぽたぽた、わたしの首元は濡れて、すーすーした。照美くんは静かに泣き続けている。 「きみも僕のこと、きらいになっちゃえばいいのに」 それは無理だよ、照美くん。だって、くっつけられた唇からわかるのはどうしようもないふかい感情ばかりだ。うぬぼれじゃあない。照美くんはわたしのことがすきなんだ。 キスの合間に彼の顔を盗み見た。照美くん、そんなにつらいなら、きらいだなんて言わないでよ。 「どこへでも行けばいい、きみなんてもう知らない」 「てるみくん、」 「僕は、萱島リサが、きらいなんだ」 はじめてきいた照美くんの嘘はかなしくて、つらくていたくて、わたしはなみだをこらえきれない。




17:/メロスの嘘








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