「萱島、転校するんだって?」

円堂くんのところに話しにきていた風丸が急にそう言って、わたしはすこしびっくりしてしまった。

「あ、知ってたの?」
「この前陸上部に顔出したら、宮坂が言ってたんだ」
「ああ、宮坂くんか。……うん、転校するよ。今週の日曜日に発つの」
「日曜日?すぐじゃないか」
「うん……」

わたしが曖昧にほほえんだら、風丸はなんだか微妙な表情を浮かべて、 「おまえ大丈夫か?」 と聞いてきた。ひどいな風丸、わたし飛行機なんかこわくないぞ、べつにはじめて乗るってわけじゃないし。 「大丈夫に決まってるでしょ!」 と返したらますます風丸はいぶかしげな顔をして、 「アフロディとはどうするんだ」 と言うもんだから、わたしはなにそれ、とあきれたみたいにわらって、 「遠距離恋愛するよ」 と言った。

「そっ……か、がんばれよ」
「なに、どうしたの風丸」
「いや、……おまえ最近元気ないからさ、アフロディとはなれんのがこたえてんのかと思って」
「やだなあもう、わたしそれくらいでめげたりしないって!べつに一生会えないってわけじゃないんだし、それに、わたし――」

円堂くんが 「お、おい、萱島?」 とうろたえた声を上げた。風丸はびっくりした顔をしている。わたしは溢れ出した涙にやっと気づいて、自分でも驚いた。 「う、わ、なにこれ」 拭っても拭ってもあとからあとからぼたぼた染み出てきてきりがなかった。あいにくわたしはハンカチなんていう女の子らしいものを持ってなかったので、制服の袖でぐいぐい拭きながら、 「おかしいな、おかしいなあ」 とばかり繰り返した。

「萱島、おまえ、我慢はするなよ」

風丸が優しく言ってくれたのに、わたしはなぜかその言葉がいやだった。風丸になにがわかるっていうんだろう、わたしの、想いとか、つらさとか、ううん風丸だけじゃなくて、わたし以外にいったいだれが、わかってくれるというんだろう。わたしは、照美くんとはなれたくない。あと4日。






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