.
.
.
.
.



拝啓 影山 零治様



ご無沙汰しております、亜風炉照美です。
木の葉も散りはじめ、肌寒い季節になって参りましたね。そちらはお変わりありませんか?世宇子中サッカー部は皆毎日楽しんで活動しています。他校からの練習試合の申し込みも絶えません。これも一重に、あなたが僕たちを率いてくれたおかげですね。結果や方法がどうであれ、雷門と同じく無名だった我が校を引っ張りあげてくれたこと、今となっては感謝しております。

あなたが失脚なさってからもう随分と日が経ちますね。僕のまわりでもいろいろなことがありましたが、ここ最近でいちばんの変化といえば、すきな女の子ができたことでしょうか。

あなたもご存知のように、僕は美しいものを好みました。素晴らしい絵画や優雅に泳ぐ魚達、壮大なクラシック音楽、そして容姿の麗しい人間。感性に働きかける美を追求した結果が、あなたの手を取り目の当たりにした、勝利という二文字でした。いまとなれば浅はかでとても滑稽な話ですが。

自分自身を敬っていた愚かな僕の人生に、彼女は突然変異を巻き起こしました。はじめて彼女を見た日のことは、おそらく一生忘れないだろうと思います。太陽が味方をしているかのようにまぶしかった彼女は、美しいなんて言葉ではとても表現しきれず、僕はただ目を奪われるばかりで、ろくに頭も働きませんでした。……俗に言う、一目惚れをしたのですね。

それから僕は変わりました。まっすぐにサッカーと向き合えるようになったのです。そう、それこそ、円堂くんのようにひたむきに、僕は努力しました。世宇子の地に落ちた評判をまた一から築き上げようと、実力で勝利をおさめ続けました。今年のフットボールフロンティアでもなかなかの成績を残すことが出来たんですよ。もちろんいまのあなたはそんなこと知らないし知る術もないでしょうけれど。

彼女の名前は萱島リサといいます。とてもかわいらしい名前だと思いませんか?名前負けせず彼女自身も可愛い女の子です。はじめは話したこともありませんでしたが、ある事故のおかげで近づくことができ、ついには想いを伝えて、いま僕は彼女とお付き合いをしています。恋愛はいいものですね。心がすごく満たされています。神のアクアを求めていた、あの頃の渇いた僕とは比べものになりません。神だ神だなんて言われて、僕は少しいい気になっていました。でも彼女と日々を連ねるたびに、どんどんそんな自分が馬鹿らしくなってゆくのです。彼女はとても素直で、欲がなくて、いつだってありのままの姿で僕に接してくれます。僕は気づいてしまいました、僕がにんげんだったことに。どこか弱いにんげんを見下していた僕ですが、自身も弱く、意地汚く、愚かでどうしようもないにんげんだったのです。その証拠に、きっといま僕から彼女を取り上げたら、僕はしんでしまうだろうと思います。彼女のことがほんとうにほんとうに、すきです。

僕はもうあなたの手を借り、あなたに手を貸すことは二度とありませんが、それでも僕はあなたを隠ればせながら尊敬していました。サッカーを嫌い、嫌いとばかりおっしゃっていましたが、いま思えばあれは感情の裏返しだったのですね。FFIでのあなたの見事な采配、画面越しではありますがしかと目に焼き付いています。あなたは僕たちにとっても、とても良い監督でした、総帥。今更とお思いになるかもしれませんが。

僕は元気にやっております、と言ったところで、僕や世宇子のみんなを道具としてしか見てくれていなかったあなたは気にもかけないかもしれませんね。それでもいいです。僕はこれからもサッカーを続けようと思っています。もうクラブは引退しましたが、受験勉強と両立させつつ、練習には参加しています。いつかまたどこかであなたに会えるような気がしていますが、あなたはどうですか?
今度会うとき、僕はおそらくあなたが腰を抜かすほどの選手になっていることでしょう。あくまで予定なのですが。

それでは、また。



.
.
.
.
.




14:/親愛なる悪魔






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -