そういえばあいつが試合後にどこに行きたいのか聞いてなかったなあ、と思いながら、取り込んだ洗濯物をたたんでいた。わざわざわたしを連れていく必要があるようなところなんだろうか。
…というか、今考えてみれば、試合見にくるよう誘ったのって、南雲なりのアタックなのかもしれない。前に、恋にさせてやるとかなんとか言ってたし。まあ確かにサッカーうまいし、プレーしてるときのあいつはほんとかっこいいと思う、けど…。

テスト2日前の土曜日だというのに、わたしの勉強はまったくと言っていいほどはかどらない。ちなみにわたしがこんなにも勉強にこだわるわけは南雲と出会う前休みがちだったときの分の成績をとりかえすためだ。ちゃんと毎日授業を受けてなかったおかげで1年のときの通知表はひどいもんだった。せっかく普通に通えるようになった今とりかえさないと高校進学があやしくなる。かといってもともと勉強は好きじゃなかったんだけども。

「なに着てこうかなー…」

たたんだ服をタンスになおしながら呟いた。南雲相手に服装なんて気にする必要ないかもだけど、でも一応わたしだって女の子だし。サッカー部のなかでも女子に人気の高い(らしい)南雲とつるんでる友達として、身だしなみくらいは。…って、南雲はどこぞのスターだよ。わたしがそんなの気にしてやる必要なんてこれっぽっちもないはず。いやでも女の子として…ああもうなんかあの日から南雲のせいで悩んでばっかりだ、わたし。だから恋とか愛とかには関わりたくないのに。

とか言いつつちゃんと明日の服装考えて枕元に置いてキッチンにおりてお弁当のおかずの仕込みはじめてるわたしはどうにかしている。ほんとにどうにかしている。まあ元より料理はそんなに嫌いじゃないし っていうかどっちかっていうと好きだし!南雲のためじゃないしほぼ自分用のだし、いいの!え?いいの?いやいいの!いいったらいいの!はいこの話終わり!

「あかりー?」
「わっびっくりしたなにおかあさん」

突然の背後からの声。
驚いたわたしは思わずにんじんを太めに切ってしまった。うわー…指じゃなくてよかったよこれ。

「なんか張り切ってるみたいだけど明日どっか行くの?」
「…サッカーの試合見に…」
「ああ、彼の応援に行くのね。だからそんな気合い入ってるんだ」

すでに出来上がって皿の上に並べられた肉巻きやらポテトサラダやらを見たお母さんがにやにやと笑いながら言ってくる。

「これはわざと多く作って今日の晩ごはんに…ていうかお母さんまだ仕事残ってんじゃないの?」
「わたしにもちょっと休憩させてよ」

はーどっこいしょ、なんて年を感じさせるセリフをはいて、お母さんがダイニングテーブルにもたれかかる。仕事大変なんだろうなあ。あんなちっさい部屋にこもりっきりでひたすらキーボード打って。フリーライターは売れると忙しいのよーなんて笑顔で言うから楽しいのかと思ってたけど、最近はそうでもないみたい。疲れきってしまってあんなにプライドもってた晩ごはんの支度をわたしにまかせてしまうくらい。

「青春してていいわねー…」
「なによそれ」
「南雲くんの分も作ってるんでしょ」
「…まあ仕方なく」
「あんた彼に会ってから変わったわよね」

輪切りにしたにんじんを花型の型抜きでくりぬく。チューリップ型なんてなんでうちにあるんだか。鍋にためた水のなかに放り込んで火をつけた。お母さんに見られてるとなんだか落ち着かない。料理の技はぜんぶお母さんに習ったものだから、いろいろ突っ込まれそうでそわそわしてしまう。

「彼の赤い髪に白いタキシードが似合うのか今から不安だわ、わたしは」
「…なんの妄想をしてんのよ」
「あかりはチャペル派でしょ?」
「まあね」
「じゃあみんなの前で誓いのキスとかしなきゃなんないのよね。あ、南雲くんとはもうキスしたの?」

卵を割るのを失敗した。

「あららもったいない。お金払ってね」
「誰のせいだと思ってんのお母さん」
「動揺しちゃったのね」
「…あのね、わたし南雲とはただの友達だから」
「え、うそ」

べとべとの手を洗い、盛大に飛び散った黄身をふきんで綺麗に拭き取る。あああもうほんとにもったいない…不景気で卵高いのにやっちゃったなあ。

「なんでうそつかなきゃなんないの」
「あかり南雲くんのこと好きなんじゃなかったの?」
「わたしがいつそんなこと言ったよ」
「だってあんたいつも南雲くんの話ばっかりするじゃない」

細かくて尖った卵のカラが手のひらにぶすりと刺さって、思わず悲鳴を上げた。うわこれ地味にいたい…。

「もういいよお母さん邪魔しないで」
「…でも南雲くんはあんたのこと好きみたいよ?」
「……なんでそんなんわかんの」
「見てたらわかるわよ、彼すごくわかりやすいもの」

…そうなの?




(つい最近知ったんですが)











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