「南雲はさ、わたしとキスしたいとかって、思う?」
「…またどえらく直球だなおまえは」
呆れたように南雲が言う。…だって他の聞き方思いつかなかったんだもん…。こういうとき対人経験の乏しさが裏目に出るなあ。どう言ったら変に思われないかとか、全然わからない。
「本当のこと言っていいのかよ」
「…わたしにとっても不利益だから絶交はしないことにしたの」
「素晴らしいくらい自己中な女」
「南雲だってそうじゃない」
「そうだけど」
南雲はそう言ったあと、わたしの部屋の天井を見つめて黙りこむ。突然呼んだのに、南雲はちゃんと来てくれた。わたしとおんなじで、ひとりでの勉強ははかどらなかったらしい。落ち着かないのはわたしだけかもしれないって、ちょっと不安だったからなんだかうれしかった。
「…好きな女としたくないって思うやつはいねえよ」
「そうなの?」
「たぶんな」
曖昧だなあ、と思って南雲の横顔を見つめていると、何を勘違いしたのか「だからってむりやりする気とかは全くないからな!」と大慌てで言ってきた。いや誰もそんなこと疑ってないけど。
「しってるよそれくらい」
「…そーかよ」
「今までずっと見てきたんだし」
南雲がそんなやつじゃないってことくらいわかるっての、と言ったら、南雲はなぜか深く深くため息をついた。なんだ、ずいぶん失礼だなこいつは。一応今のは誉めことばに相当するはずなんだけど。
「おまえさ、無自覚かもしれねーけど、あんま滅多なこと言うなよな」
「なにが?」
「期待させるような発言はつつしめっつってんの」
今までばかだばかだと思ってた南雲があまりに意味不明発言ばかりするのでわたしは思考回路がくすぶってくる。ああもう文系むかつくな、難しい言い回しばっかりしやがって。などと理不尽な恨みを抱いていると、唐突に肩を叩かれた。ちょっとびっくりしつつ南雲を見上げる。
「なに」
「で、話ってそんだけ?」
「あ、…や、えーと。好きっていうのがどんなものなのかわかんなかったから、聞きたかっただけ」
「それがどうしたらキスしたいかどうかにつながるのかわかんねえんだけど」
「いやだから南雲にキスしたいって思ったら恋なのかと」
「え、したいの」
「いや別に」
「…ああそう…」
イスがわりに腰かけているベッドがギッときしんだ。わたしはうつむいてしまった南雲の横顔を見つめながら考える。…なんかやっぱりよくわかんないなあ。でもとりあえずわたしは南雲をまだ男の子としては見れないらしい。こんな状況なのに、前みたいにドキドキしたりしてないし。あれは一体なんだったんだ。
中途半端に伏せられた南雲の大きい目。まつげなっがい。こうして客観的に見ると南雲ってかっこいいんだなあ。いつもこんなかっこいいのと一緒にいたんだ、わたし。…えっと、だれだったっけ、あの子。南雲のことが好きらしいクラスの子。なんか悪いことしちゃったかもしれないなあ。
「あかり」
突如名前を呼ばれ、気づいたときには南雲の腕のなか。ぎゅう、と抱きしめられ思わず息を呑む。
「南雲」
「今はそれでもいい。でも絶対恋にさせてやる」
「え」
「おまえが好きだ」
服ごしに伝わってくる南雲の体温が心地いい。ドキドキしてないなんて思った直後にこんな。心臓がどくんどくんと、あまりにも早くておかしいなと思ってたら、すぐ近くにいる南雲の分の音も混ざっていた。
「待つぜ、オレは」
「……うん」
(マイホームペナルティ)
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