うちのクラスに演劇部の期待のルーキーがいると騒がれたことがあったのを覚えていたような、やっぱり知らなかったような。



*



平凡な女子生徒、立花さゆりは大好きな彼氏が浮気してると思い、勢いでふってしまったけれど、あとになってその疑惑は晴れた。そして彼はまだ自分のことが好きらしいと知ったが、だけど自分からふった手前、また付き合って欲しいとはいいづらい。だからわざと、彼を焦らせて向こうから言わせよう、ということで、元彼である佐渡智也と自分と同じクラスで、唯一同じサッカー部である南雲晴矢に協力を求めた。ただ南雲晴矢には#名字#さんという彼女らしき人がいるため、自分が南雲晴矢といっしょにいると彼女に悪いと思い、まず彼女の方に事情を説明しに行ったところ、すっぱりと 『彼女ではなく、ただの友達』 だと言われたため、それならば気兼ねすることもないだろうと思って、南雲晴矢に状況を説明。クラブでもクラスでもそれなりに仲のいい佐渡智也がまだ元カノである立花さゆりに気があることを知っていた南雲晴矢は快く彼女に協力することを承諾。ただ南雲晴矢がその旨を自分の想い人である花宮あかりに教えようとしたところ何故か誤解を生み2人の仲は険悪になってしまっため、彼女は自分と共に南
雲晴矢の恋も実らせることを決意。痺れをきらした佐渡智也が花宮あかりと仲良くするふりをし、自分と南雲晴矢になんらかの作戦をしかけてくるのを待った。そして案の定4人での映画に誘われたので、『あたし今南雲晴矢くんが気になってるの』大作戦を実行したが、とうの南雲晴矢が予定を狂わせ花宮あかりと大脱走。ファミレスに2人置き去りにされた立花さゆりと佐渡智也は互いの気持ちを伝え、無事仲直り。そしてしばらくして帰ってきた南雲晴矢と花宮あかりもうまくいったらしく。

まあ、だからといって自分の女友達まで完璧に騙しきった彼女の演技力はほんと素晴らしいということを伝えたいわけです。あ、俺佐渡智也ね。雷門中の猿渡智哉とは何の関係もないです。あと俺の彼女はすごく可愛いです。



*



「ほんっっとうに、ごめんなさい!!」
「い、いや、もういいってば、立花さん」

わたしは助けを求めてとなりにいる南雲を見るけど、奴はオレにはどうしようもねえ、というように肩をすくめるだけ。このやろう、役に立たねえな……!

「南雲も、悪かったな、…その……花宮さんに絡んだりして」
「ああ、オレ別に気にしてねーしいいぜそんなの。ただテスト開けの紅白戦で覚えとけよな」
「ちょっと南雲それ前後で矛盾してる」

立花さんがくすくすわらって、佐渡くんもつられたみたいにわらう。となりで南雲もわらいだしたので、わたしも自然と口元がゆるんだ。なんだか、不思議な感じだ。こんな風に何人かでわらいあうなんて経験、今日がはじめて。南雲といる日々はぜんぶがあたらしくて、キラキラしてた。そういえばこの前お母さんに言われたっけ。南雲に出会ってから、わたしは変わったって。たしかにそうだったんだなあ。わたしはあれからどんどん色んな世界を知って、ひとりじゃ見えなかったものが見えるようになった。ぜんぶ、ぜんぶ、南雲のおかげなんだ。

「南雲」
「ん?」
「ごめんね、わたし、誤解しちゃって」
「あー…、そういやなんでオレおまえに誤解されたんだよ」
「……試合見に行った日に、南雲が立花さんと女の子のお店にいるの見かけて、……それで」
「うそ、まじで?あれ見たのおまえ」
「……うん」

南雲はあちゃー、と呟いて、立花さんになんらかのジェスチャーをする。……ちょっとちょっと、なによそれ。やっぱりあれはやましいなにかだったの?せっかくこのわたしが南雲なんかに感謝しかけたというに、いきなりムードぶちこわしか。

「花宮さん、あのね、それなんだけど」
「おい立花っ」
「いいじゃないの、言って損することじゃないでしょう南雲くん。もうふたり付き合ってるんだし」
「そういう問題じゃねえ!」

南雲がテーブルを叩いた衝撃でグラスの氷がからんと音を立てた。なんかやっぱり隠したいことだったのかなあ。ふてくされてしまったらしい南雲はわたしと目を合わせてくれないので、仕方なく立花さんに聞いてみることにした。

「どういうことなの?なにかあったの?」
「んーとね、……南雲くんは、花宮さんにあげるプレゼント選びに行ったの」
「……は?」

まったく予想もしていなかった言葉に思考回路が一時停止。呆然としたまま南雲に視線を送るけど、奴は腕を組んでむすっとした顔をしていて、何も言ってくれそうにない。

「ほんとは、花宮さんを連れていって、さりげなく好きなものとか聞き出して、買ってあげるつもりだったらしいんだけど、花宮さん途中で帰っちゃったでしょ?だからあたしが代わりについていってアドバイスしたの。誤解させて、ごめんね」
「……そういうこと、だったんだ……。ちょっと、南雲!そんなんならはやく言ってくれればよかったのに!」
「ばっ、おまえなあ!人が説明しようとしたとき何もきかずに家ん中入っちまったくせに!」
「あれ、そうだっけ」

とぼけんじゃねえ!と叫ぶ南雲はほっとくとして、わたしは立花さんに申し訳なく思った。勘違いとはいえ、わたしは彼女に嫉妬したし、恨んでしまった。彼女はただ、佐渡くんの愛を取り戻したかっただけなのに。

「ごめんなさい、立花さん。わたしこそ謝るべきだった。佐渡くんも、なんだか利用したみたいになっちゃって」
「え?いやいや、それ言うなら俺の方!手ぇ貸してもらって悪かったよ。けどまじでよかったよな、俺らも花宮さんらも仲直りできて!」
「そうね、あたしはもうちょっと遅かったらほんとに南雲くんを好きになってたもん」
「……え?」

にこにことわらっていた佐渡くんの表情が凍りつく。ちょっとびっくりしてしまったわたしが立花さんを見ると、彼女はいたずらっぽく舌を出して見せた。尊敬に値する演技のうまさだと感心していたら、南雲がそっと耳打ちしてきた。

「なんかさ、オレら、バカップルに巻き込まれたっていうか」
「あー…そうだなあ、でもいいんじゃない?結果オーライだし」
「……なんかおまえ、性格変わった?」
「気のせいだよ」

わたしがわらって見せたら、南雲はいまいち納得のできてない顔をする。変わったとしたらあんたのせいだ!って言ったら、南雲はどうするかな。

「あっ!そうだ!」
「へ?なに、立花さん」
「友達んなろ、あかり!」

彼女のツインテールが柔らかく揺れた。握られた手をきゅうと握り返して、わたしは微笑んだ。 「うん、」 ぽたぽた流れた涙を見て、南雲と佐渡くんがすごく驚いている。 「お、おいあかり!大丈夫か!?」 はは、南雲はばかだなあ、これはたぶんうれしい涙なのだ。こんな経験、はじめてだから。わたし、南雲に出会えて、恋されて、恋しかえして、ほんとによかった。あの時閉ざした扉を蹴やぶってくれたのは、南雲だったよ。

「晴矢っ」
「えっ、あ、え!?な、なんだよ急に」
「だいすき」
「……おっ……!?おま、なに」
「ははは、ばーか!照れんな!」
「う、うるせえな!」

……お願いだから、これからもずっとそばにいてね。





(ねえ智也ー)
(なに、さゆり)
(あたしたちよりバカップルだって教えてあげたほうがいいかな?)
(……いまはほっとこうぜ)
(ここファミレスなんだけど)











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