映画を観に行く、と言ったはいいものの、期末テストは1日3教科ずつ、つまり3時間目までなので、当然4人ともお昼はまだ。ということで近くの安いファミレスで食べてから映画館に行くことになった。わたしは佐渡くんの指示でちゃんと彼の隣に座る。わたしの正面には南雲。昨日あんな変な電話をした手前、なんだか気まずかった。いやまあ元々気まずい状態だったんだけども。

「あかり、何頼む?」

佐渡くんがにっこり、さわやかな笑顔で聞き、立てて置かれていたメニューをす、と渡してくれた。うわ、なにこの子演技うまっ。なんかもう、すごく優しい彼氏みたいだよ佐渡くん。わたしは向かい側にいる南雲と立花さんをなるべく気にしないように心がけながら、ええっととつぶやきメニューをのぞきこむ。正直言ってわたしは今日そんなにお金を持ってきてなかった。チケットはもうあるわけだし、交通費だけあればいいやと思っていたのだ。お昼ごはんのことなんてすっかり頭から抜けてしまっていた。

「……あかりおまえ、今月金欠っつってなかったっけ」

運ばれてきた水のグラスに手を伸ばした南雲が唐突に言って、思わず心臓がはねる。

「ドリンクバーだけにしたら?」

まるでからかうような口調だった。わたしはおそるおそる目を上げて南雲を見た。いつもの南雲だ。なんにも変わっちゃいない。

「いいよ、あかり。あかりの分俺が払うから、好きなもの食べなよ」

ぽんぽん、と佐渡くんに頭を撫でられ、思わず赤面する。な、南雲の前なのに……。いや妬かせようとわざとやってるんだろうけど、でもさすがに、これは…。不安になってきて佐渡くんを見上げたらにこ、と微笑まれた。…そうよ、これは佐渡くんと立花さんのためでもあるんだから!

「えっと、あっ、でもそんなのわるい、よ、…と…と、智也…」

佐渡くんの名前を呼んだとき、怖くて南雲の反応を見ることができなかった。どう、思ったかな。すこしくらい嫉妬してくれたかな?佐渡くんは昨日作戦を考えたときみたいな頼りなさがぜんぜんなくて、わたしの方がおたおたしてしまう。もしかしたら佐渡くんAB型なのかな、と今まったく関係ないことを考えた。いやだってこれほんとにあの佐渡くんなんだろうか。

「そんなの気にしないでいいって。あかりは何が好きなの?」
「……えー、っと…」
「南雲くんはなに食べるの?」

突如聞こえた明るい声に、またわたしの心臓がジャンプした。立花さん、だ。わたしはどちらかというと南雲より立花さんの顔の方が見づらかった。言いようのない罪悪感があったからだ。演技とはいえど、佐渡くんに名前で呼ばれたり優しくされたりして。佐渡くんによるとまだ彼を好きらしい彼女は、この光景を見てどんな気持ちになってるんだろう。そう考えたらなんだか、すごく胸がしめつけられた。

「あー…、どうしよっかな」

気のせいかもしれないけど、南雲の声はさっきより低かった。ああ、やっぱり機嫌わるくしたのかも。いや、でもそれは喜ぶべきなんだよね。南雲がわたしと接してる佐渡くんに嫉妬してるってことなんだから。……だけど、痛いなあ。やっと好きだって気づいたのに、わたし今すごくひどいことしてるんじゃないのかな。これじゃほんとに嫌われちゃうよ、わたし。

「……あれ?」

カバンを探っていた南雲が声を上げた。どうしたの?と立花さんが聞いたら、呆然としている南雲がつぶやいた。

「財布学校に忘れた」
「え、うそ」
「……オレ、ひとっ走りして取りに行ってくるわ」
「いまから行くの?南雲くん」
「おう。おいあかり!」
「ふぇ?」

突然名前を呼ばれて驚いて、情けない声が出た。立ち上がった南雲はカバンを肩にかけ、わたしの腕をつかむ。え、ちょっとちょっと。なに?どうする気?まったく状況がつかめずクエスチョンマークが頭のなかを飛び交ってるわたしは佐渡くんに助けを求めて視線を送ったけど、彼も南雲の予想外の行動に唖然としていた。そのままぐいぐいとひっぱられ、半強制的に立たされたわたしはあわてふためいて南雲の名前を呼んだ。

「ちょっと待って、なに、わたしをどーすんの」
「いっしょに来いっつってんだよ」
「えええ、なんで」
「オレここから学校までの道知らねえんだ、案内しろ」
「南雲おまえ、まさか相変わらず方向音痴なの!?」
「うるせーないいから来やがれ馬鹿」

馬鹿はどっちだ!
さ、佐渡くん、結局きみの作戦はしょっぱなからうまくいかないみたいだよどうしてくれんの!ていうかなんかもしかしたらこれ南雲ちょう怒ってるんじゃないの!?わたしこれついてって大丈夫なの!?いや無理やりつれてかれてんだけどね!やだもう怖い無理お家かえりたい!!




(白昼逃走劇)











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