理科のテストはなかなかよくできた。90点はいったんじゃないかと思う。ちゃんと勉強してよかった、と内心浮かれていたけど、明日はまだ苦手な国語が残ってる。憂鬱だなあ、と思いながら席を立ったら、佐渡くんに名前を呼ばれた。あ、一瞬忘れてた。そうだ、今からわたしは映画を観に行くのだ。南雲と、そして佐渡くんと、立花さんと。佐渡くんのためにも南雲を立花さんから引き離さないといけないのだ。ただ、佐渡くんの考えた作戦はあまりにあてずっぽうすぎて、うまくいく自信はまったくなかった。佐渡くんは意気揚々としていたけれど。

「花宮さん、いっしょにロッカーまで行こう」
「う、うん」
「作戦、忘れちゃだめだよ。俺のことはちゃんと智也って呼んでね、えっと、あー…、あかり」
「なに照れてんの」
「うるさいなっ」

佐渡くんの考えた作戦とはこうだ。

4人で映画行って、わたしと佐渡くんはわざと仲良く話したり接したりする。と、南雲か立花さんのどちらかが耐えきれなくなって怒鳴ったりなんなりするだろうから、そのときに「俺はおまえの方が好きだよ!」「わたしは南雲の方が好きだよ!」みたいなことを言う。そして仲直り。以上。

はっきり言って、めちゃくちゃである。佐渡くんは自信ありげに、立花さんがまだ自分を好きなはずだと言ってたけど、そんなのわかんないじゃないか。佐渡くんの気を引くために南雲に接してるうちに、本気で好きになっちゃったり。もしくは南雲の方が立花さんを好きになっちゃったり。それは最悪だ。佐渡くんと立花さんが仲直りできたとしても、わたしと南雲は元の関係には戻れないかもしれないからだ。

もし、南雲がまだわたしを好いてて、立花さんも佐渡くんに未練があって、うまく事が運んだとしても、わたしは佐渡くんと違って、面と向かって南雲に気持ちを伝える勇気や度胸なんて持ち合わせていない。わたしが望むのは、佐渡くんとわたしが仲良くしているのにたいして、立花さんの方が怒ってくれること。そしたら大々的に告白するのは佐渡くんになるのだ。

「佐渡くん」
「うん?なに、あかり」
「……もうすでになりきってるんだね…」
「へ?」
「あ、いや、えっと。この作戦の成功率ってどれくらいかなあ」
「2パーセントくらいじゃないかな?」

佐渡くんの笑顔に殺意すら抱いた。

ああ、ほんとに不安だ。うまくいく気がしない、というか絶対失敗する。
……失敗したらどうなるかな。南雲はわたしを嫌いになって、立花さんは佐渡くんを嫌いになって、ふたりが付き合ったりするのかな。パターン1、うわ、最悪。これだけは避けたい。パターン2。佐渡くんと立花さんだけ仲直りできて、わたしと南雲は喧嘩してしまう。ああ、これもまた最悪。パターン3。わたしたちはうまくいって、佐渡くんと立花さんは仲直りできない。……これはなんだか申し訳ない。たとえ成功率が2パーセントでも、わたしにこの計画をもちかけてくれたのは佐渡くんなのだ。わたしはたぶん、ひとりじゃなんにもできなかったと思う。だから、わたしだけしあわせになるのは、ずるい。これもだめだ。ああ、考えれば考えるほど、嫌なパターンばっかり浮かんでくる。大丈夫かな、これ、ほんとに。南雲にちゃんと好きだって言えるかな。またふたりでいっしょにいられるようになるかな。


階段を降りきり、ロッカーに向かう。特徴的な赤い頭と、その横にツインテールの可愛い女の子。わたしはごくりとつばを飲み込んだ。となりで佐渡くんもきゅうとこぶしに力を入れていた。ああ、かみさまほとけさまお願いです。




(わたしたちにほんのすこし、世界を変えるちからをください)










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