「あれ、なんかはさまってた」

佐渡くんが言って、わたしは顔を上げる。今彼に貸している参考書になにかはさみっぱなしだったみたいだ。はい、と渡してくれたのは2枚の長方形の紙。なくしたと思ってた映画のチケット。

「あ、それにはさんでたのかー…」
「その映画……」
「え?」
「いや、なんでもない」
「……そう?」

近所のひとから、自分は行く暇がないからよかったら行ってきて、と言って譲られたものだった。南雲と理科のテスト勉強してるときに、もうすぐ有効期限きれてもったいないからいっしょに行かないかって誘って、そのまま忘れてたんだろう。ちなみに期限は明日。色々あったせいですっかり忘れてしまっていた。

「もしかして、南雲と行く気だった?」

佐渡くんに言われて、一瞬どうしようか迷ったけど、素直にうなずいた。別に、隠したところでなんのメリットもないし。

「花宮さんてさ、南雲のこと好きなんだよね」
「……そう見える?」

まいっちゃうなあ、自覚した次の日にこんなこと言われるなんて。わたし、今までほんと、自分で気づいてなかっただけなんだ。お母さんにも言われたしなあ。なんかもう、馬鹿だ、わたし。だって、南雲はもう。

「違うの?」
「ううん、違わない」
「やっぱり?」

でももうやめるんだ、と言ったら、佐渡くんはおっきい目をまんまるにして、なんで、と聞いてきた。

「立花のせい?」
「…たちばな?」
「南雲に言い寄ってる女子」
「ああ…立花さんていうんだ」
「花宮さんほんとにクラスに興味ないんだなあ」

佐渡くんの言い方は、別にそれを変だと思ってるようでも、馬鹿にしてるようでもなかった。ただたださらりと、流れるみたいななんともなさで。わたしが言うのもなんだけど、彼はちょっと変わっている。表裏がないというよりは、なにも考えていないかんじ。わたしがこんなに普通に佐渡くんに接することができているのはたぶんそのせいだ。なんというか…、彼はまったくわたしに興味がなさそうなのだ。

「妬いてんの?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「そう?」
「うん、だって南雲はわたしだけのものじゃないんだし」
「今まで散々独占してたくせに」
「それは、」
「ねえ花宮さん、それ依存っていうんだよ、知ってる?」

佐渡くんはにこりとわらった。それはあくまでも普通の、彼のやさしいえがおだったのに、わたしは背中を汗がつう、と流れてったのを感じた。

「……佐渡くん、」
「俺別に花宮さん嫌いじゃないから勘違いしないでね」
「じゃあなんなの?なにが言いたいの」
「早く南雲と付き合って欲しいんだ」

わたしの使っていたシャーペンの芯がボキリと折れた。……なんか前もこんなことあったような。すっごいいいタイミングでこんなふうに。折れにくいようにかためのやつ買うべきかなあ。こんなしょっちゅうボキボキ折れてたらもったいないもんね。

「俺ね、この前まで立花と付き合ってたんだよ。けど浮気してんじゃないかって疑われてさ、フラれちゃって。結局のところ俺浮気なんかしてなかったし、もちろんすぐ疑いは晴れて、立花もそれ知ってて、んで、まだ俺に未練あるはずなんだよね。でもあいつあんな顔して実はけっこうプライド高いから、自分からヨリ戻したいなんて言ってこないんだよ。南雲に気あるふりして見せて、俺から言わせようとしてんの。花宮さん、だから、ちょっと手ぇかしてくんないかな。立花から南雲を引き離して欲しい。だいたい南雲花宮さんのこと大好きなんだし、目の前で立花と話したりしてかなり罪悪感かんじてると思うんだよ」

……あれ、なんだか佐渡くん最初のイメージとちがうぞ

「手段はある」

彼が財布から取り出して机にバン、と置いた2枚の長方形の紙は、わたしが今手にしているのとまったく同じもの。あー、なるほど。お互い自分の恋のために協力しましょうってことね。

「フラれる前に、立花とふたりで行く約束してたんだ。だからこれで、明日4人で映画行こう。そこで決着つけようよ」
「……わかった、その話乗る」




(秘密の協同戦線)



(……ただ佐渡くんはちょっとアホの子なんだなとおもいました)





※佐渡くんと立花さんの名前は適当です











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