謝って、ちゃんと気持ちを伝えたら、元通りになれると思っていた。だけど、現実はそんなに甘いもんじゃないということをわたしは思い知らされた。

「でね、そのときあの子ったら」
「え、もしかして」
「うん、俺は男だ!なんて言って、相手のやつ驚かせてさ」
「今どきの女子中学生怖いんだな」
「南雲くん言い方おじさんくさいよ」
「なんだと、もっぺん言ってみろ」
「あはは、冗談だってば」

朝方から早々、いらいらしていた。
ただでさえ、次の時間のテストは苦手な社会。夜中にまとめた勉強ノートを一心不乱に見つめて、一言一句漏らさず暗記しようとするのだけど、すぐ隣でやかましく話す男女のせいでちっとも頭に入りやしない。……いいよね、南雲は。社会全般得意だから、ノートや教科書を開いて直前まで勉強しなくても高い点取れるもんね。昨日仲良くなったクラスメートのかわいい女の子とふたりできゃあきゃあ楽しくお話して、さぞやいい気分でしょうよ。

ああ、むっかつく。

胃がキリキリキリキリと痛む。朝ごはんはしっかり食べとかないと脳の働きが鈍っていい点取れないからと思っていつもよりすこし多めに食べたけど、今日はちょっと食べ過ぎちゃったのかも。
眉間にシワを寄せて、ひたすら並ぶ自分のひょろひょろした文字とにらめっこ。ちくしょう、歴史ほど頭に入らん教科もない。これほど興味のない教科もない。偉人の名前なんか、聖徳太子くらいしか自信ない。聖徳太子すら漢字で書けるか危うい。書けたにしろそんなとこ今回の範囲じゃないけど!

「ねえ、花宮さん」
「……あ、…なに?」

前の席の男子がくるりとわたしの方を向いて話しかけてきた。……えっと、この子名前なんだったっけな。たしか、南雲とおんなじうちのサッカー部の部員の…さ…、さ、わ…さわた…さわたりくん?だったかな。わたしほんとにクラスの子の名前ちゃんと覚えてないなあ。

「あのさ、明日提出の理科の課題プリント、やった?」
「一応、やった…けど」
「俺もやったんだけどさ、4番わかんなくて。もし今持ってきてたら、みしてくんないかな?」
「…でも、写したら佐渡くんのためにならないと思うよ」
「あー、言うと思った、それ」

はは、と笑う佐渡くんの笑顔はなんだか独特。なんていうか、表裏がないっていうか。純粋そうっていうべきかな?下心がまったくなくて、今までわたしに言い寄ってきた男の子たちとは雰囲気が違っていた。

「花宮さん真面目だもんなあ。わかった、やっぱり自力でがんばってみる」
「え、っと、写すのはアレだけど、教えることはできるよ?」
「いや、いいよ。わざわざそんなこと、悪いし」
「わたしは別に…理科は得意な方だし」
「んー…花宮さんがよくても、さ」

佐渡くんはぽりぽりとうしろあたまを掻いて、ちらりとわたしの隣の席の男子を見る。

「あいつに怒られそうで怖いし」

苦笑いを浮かべる佐渡くん。わたしはずきん、と胸が痛むのを感じた。……南雲は、別に怒んないと思うなあ。だってもうわたしには興味もないみたいだし。わたしが佐渡くんに理科を教えてたって、きっと気にもしないんじゃないかな。あの子と楽しいお話するのに夢中になってるし。

「大丈夫だよ、そんなの」
「え、でも」
「あんなやつ気にしないで。……今日テスト終わったあと、教室残れる?」
「うん、残れる…や、だけどやっぱり」
「いいの!人に教えるのって自分の勉強にもなるっていうじゃない、だから」
「うーん…じゃあお願いしよっかなあ」

まかせてよ!と言ったあとで、わたしは何をしているんだろうと思った。大っ嫌いな『男の子』に、自分からいっしょに勉強しようって言ってしまった。いやでも佐渡くんいい子っぽいし、別にそんな気にすることないかも。南雲はわたしが隣でこんな話をしていようが、聞こえてすらいないみたいだし。……もう、いいや。どうにでもなっちゃえ。南雲なんか、もう、知らない。





(ばいばいさようなら)












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