わたしは、馬鹿だ。

大事な友達だから、南雲には幸せになってもらいたいと思ってた。それはほんとうのことだ。だから南雲がだれかを好きになったり、付き合ったりするなら、わたしはそれを応援しなきゃいけないと思ってた。それもほんとうのこと。 ……じゃあ、今日のわたしは何?南雲があの子といっしょにいて、楽しそうにしてて、どうしてあんな気持ちになったの?どうしてあんなに胸がしめつけられるような感覚に陥って、たまらなくなって、走り出して。がんばって作ったお弁当、おいしかったって言ってくれたのに、わたし、あの子でもいいんだ、わたしじゃなくても別に、だれでもいいんだ、なんて、言って。


……けど、南雲もひどいよね?


おまえじゃなきゃお断りだとか、行きたいところがあって、つれてくならおまえがいい、みたいなこと言ってたくせに。



お気に入りのふかふかベッドの上にいるのに、なかなか眠れない。おなかのなかがぐるぐるぐるぐるしてやっぱり気持ちわるい。 ……認めるのが、怖い。だって、この感情を認めてしまったら、わたしは大きな矛盾をうむことになる。わたし、みょうじなまえは男の子が嫌い。それはわたしのなかの絶対の決まりごと。くつがえることはない。なのに、南雲晴矢が好きで、彼といっしょにわらってたあの子に嫉妬しているだなんて。そんなのおかしい。南雲は男の子なのだ。わたしの嫌いな『男の子』なのだ。

「……どうすればいいの…」

ゴロン、と身体を回転させ、枕に顔をうずめる。なんで眠れないのか、とっくの昔に見当はついていた。電気が煌々と点いているからだ。昨日までは豆電球ひとつだったからふつうに眠れていたけど、今日はこの家にひとりきりだから。別に幽霊なんて非科学的なもの信じてないし(わたし理系だし)、ちゃんと家中の鍵を閉めたし強盗なんか入ってこないとは思うけど、でも、用心のためっていうか、まあ一応。

何分かおとなしく目をつぶってみたけど、どうしても意識をてばなせない。脇に置いた目覚まし代わりの携帯電話を手にとって、カチカチとボタンを押す。南雲との最後のメールはけっこう前だった。テスト前だから、かなりの時間いっしょにいたし、わざわざメールで話すことなんてそんなになかったからだ。なのに今や、南雲の短い文章すらなんだかすごく大切な気がして。

……、遅すぎたなあと、思う。

『男の子が嫌い』という決まりを破って、もう少しはやく南雲を好きになってたら、南雲の告白を素直に受けとめて、いいよって言って、付き合って。そしたら幸せだったかもしれない。南雲に幸せになってほしいなら、はじめからそうすればよかったのかも。わたしはこの前南雲に、キスしたいと思うなら恋なのかって聞いたけど、あれやっぱりそうなんじゃないのかな。もし南雲があの子とキスするっていうなら、わたしは割り込んでそれを阻止して、その子とするくらいならわたしとしろ!って言っちゃうと思うから。

「南雲……」

明日、ちゃんと謝ろう。変なこと言ってごめんって。それで、もし言えたらなんだけど、わたしの気持ちを伝えてみよう。あの子といっしょにいるの見ていやだった、多分嫉妬した、前はあんなこと言っちゃったけど、わたしは南雲が好きなんだと思う、って。たしかに南雲はまごうことなき男の子だけど、でも彼だけは特別だからいいんだ、きっと。好きになったっていいんだ。 もし南雲がもうあの子と付き合うことになってたらどうしよう、とも考えたけど、さすがに昨日今日でそれはないかな、と思い直した。どうか間に合いますように。南雲がまだわたしを好きでいてくれますように。




(きみの好きな子でいたい)











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