相変わらずだなあ、と思いながら、フィールドのなかをかけぬける彼を見つめていた。いつもは自分勝手であんまり協調性のない南雲だけど、ひとたびあそこに立てばまるで別人になったみたいだ。味方の選手の位置を的確に把握して指示を出したり、フリーの選手を見計らって絶妙なパスをしたり。敵の挑発に乗りやすくてすぐカッとなるところが彼っぽいけど、それでもサッカーをしてる南雲は普段の数倍かっこいい。
藤棚の下においてあるベンチに腰かけ、お弁当の入ったトートバッグを手に試合を眺めていると、ふいに話し声が聞こえてきた。何の気なしにそちらに目をやってみると、ここからすこしはなれたところに同じクラスの女子がふたり、立って試合を見ていた。そのうちのひとりは例の、南雲を好いている、あの子。…あの子も、南雲を応援しにきたんだ。無意識に耳を澄ませると、ふたりの会話がぼんやりと聞こえてきた。
「見てよ、南雲くんすごいかっこいいよ!あんな大きい人からボールとって」
「う、うん…」
「もーしゃきっとしなさいよ!南雲くんにタオル渡すんだーって、あんなに張り切ってたくせに!」
「あ、あたしやっぱりいいよ…」
「はあ?なんでよ!そんなんじゃほんとに花宮さんに負けちゃうよ?」
「だって彼女、南雲くんとすごく仲良いんだもん…、あたしの入る隙なんてないよ」
「なに言ってんの!あの子は南雲くんとはただの友達どまりなんでしょ!まだあきらめんのは早い!」
「…うーん…でも、ふたり、このあとどこかに一緒に行く約束までしてたし」
「別にデートってわけじゃないんだからさ、大丈夫だって!あんたかわいいんだからもっと自信持ちなさいよね」
「…あたしより、花宮さんの方がずっとかわいいよ…」
ぎゅう、とトートバッグの持ち手を握りしめた。…わたしが、悪いのかなあ。友達、なんて言っておきながら南雲の誘いにのって、お弁当まで作ってきて。なんだかずるい。
南雲にとっては、自分のことを好きって言ってくれるあの子といる方がいいんじゃないかな。南雲はあの子を好きになった方が幸せになれるんじゃないかな。こんなはっきりしない女よりも、あの子の方が。
南雲が敵チームのフォワードの選手にスライディングをして、ボールを奪うのが見えた。そのままゴールまで風みたいにさっそうと走っていく。敵の激しいチャージをふわりとかわす。シュートをうつふりをしてフリーだった味方の選手にパスする。そしてその選手から南雲にセンタリングが渡る。敵チームのゴールキーパーが地面をつよく蹴って、南雲のうった球に手を伸ばす――。
ゴールネットが揺れた。赤い髪が風になびく。本当に嬉しそうな顔でガッツポーズをするのをぼおっと見つめていたら、南雲と目があった。
「…あ、」
ナイスシュート、と言う前に、南雲が男の子っぽい笑顔で親指を立てて見せてきて。やったぜ、と言わんばかりの表情と仕草。
「が…がんばって、南雲!」
ベンチから立ち上がって叫んだら南雲はわたしに手を振って、チームのみんなの方へ歩いて行った。
頬を汗が一筋流れる。
(こんなにあついのは、今日の気温が高いからだ)
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