たたん、たたん、と音を立て、電車が線路を走る。時間が時間だし、いつもより車両内はひとがいなくて、すみっこのほうにおばあちゃんがひとり座っているだけだった。わたしは心底うきうきしながら士郎くんのとなりに座っていた。着いたら、まず何から乗ろうかなあ。わたしも遊園地は久々だから迷ってしまう。観覧車、ふたりで乗ってみたいなあ。わたしも女の子なので一応、漫画とかでよくあるてっぺんに着いたら告白、みたいなのに憧れてたりするけど、その可能性は0に等しいからそんな期待はしてない。いいなあ、とは思うけど。わたしが、すきだよって言ったら、士郎くんはどうするのかな。やっぱり、ごめんって言うんだろうなあ。こんなことになるなら、さっさと伝えて、ふられて、外国でもどこへでも行くがいいさ!って、思えたらよかったのになあ。士郎くんといれる最後の夏休みになること、わたしは知ってるから、精一杯思い出作ろうって思って、誘ったわけだけど。逆に悲しくなってきてしまった。士郎くんが外国に行ってしまうこと、わたしは士郎くん本人から聞いたわけじゃない。 1ヶ月くらい前、士郎くんの家に遊びに行ったときに、たまたま聞いてしまったのだ。士郎くんが、ゲームで賭けをしてわたしに負けて、コンビニにアイスを買いに行っていたとき。鳴り響いた電話に、わたしが勝手に出ちゃいけないかなと思って出ないでいたら、留守番電話に切り替わって、聞こえてきた男のひとの声。『留学の件について、』 わたしは確かにそう聞いた。最初は耳を疑った。留学?誰が?まさか、士郎くんが?うそだうそだと、黙って続きを聞いていたら、士郎くんが、夏休み明けにはサッカーの修行をするために外国に行ってしまうことを、わたしは知ってしまったのだ。わたしに黙って、彼は。遠いところに行くと決めていたのだ。いつか、ちゃんと士郎くんの口から言ってくれるだろう、今はまだ秘密にしておこうとしてるんだろう、と思ってその日から今まで、留守録を聞いてしまったこと、黙っていたけど。士郎くんは相変わらず明るく笑うし、わたしに話しかけてくれるけれど、ちっともその話を出さないのだ。放っていたら、なにも言わないまま行ってしまうかもしれない。いやむしろはじめから、そのつもりなのかもしれない。だから、わたしは今日、そのことを聞いてみようと、覚悟を決めた。

「……眠いの?」

士郎くんがやさしい声で、黙ってしまったわたしに問う。士郎くん、わたしは、いやだよ、士郎くんが遠くに行っちゃうのは。でも、サッカーしてる士郎くんのことすごくすきだし、がんばってる姿はほんとキラキラしてるし、士郎くんが決めたことならば、留学も応援するよ。でもさあ。

なんで、一言くらい、相談とか、してくれなかったの? …なんて、理由はわかっているけど。わたしなんて役に立たないからだ。士郎くんの夢を、サッカーへの情熱を、邪魔してしまう存在だからだ。相談したところで、ただの幼なじみのくせに士郎くんに惚れてしまったわたしに、いかないで、とか言われたら、やさしいから迷ってしまうんでしょう。だからなにも言わないんでしょう?士郎くん。

「……うん、ちょっと眠いかも。いつもよりはやく起きたから」
「お弁当、ほんとにがんばって作ってくれたんだね。…肩貸すから、着くまで寝る?」
「いいの?」

うん。と言って、士郎くんはにこにこ笑う。わたしはまたきゅんきゅんしてしまう。お言葉に甘えて、士郎くんに近づいて、こてんと頭を肩にのっけてみた。わたしの丁度いい高さになるように少し低くして座ってくれて、ああもう、ほんとに、このひとは。士郎くんに惚れない女の子なんていないんじゃないかなあ、とまで思う。士郎くんの肩に触れてるほっぺたがかあっと熱くなって、そこからあたたかいのがじんわりと全身に広がってゆく気がした。眠ってしまって、手に持ったトートバッグを落として、お弁当がひっくり返るといけないから、自分の左側にそっと置いておいた。別に、遊園地なんてところには行けなくてもいいかも。このままでもじゅうぶんしあわせで、たのしい。電車のブレーキが壊れて、どこまでも走り続けたらいいのに。なんて、ほんとに壊れたりしたら、環状線じゃないから、事故起きちゃうけど。





*





「お兄さんたち、はやく起きねえと、ドア閉まっちまうよぉ」

ん?

わたしはうっすら目を開けて、外の光の眩しさに驚いてまた閉じる。ああそうか、わたし寝ちゃったんだっけ、あのまま。わたしたちに声をかけてくれたひとは、さっきすみっこに座っていたおばあちゃんだった。着いたのかな?と思って、姿勢を直してぐぐっと伸びをしたら、士郎くんがわたしの方に倒れ込んできてびびった。うおおおお!?なに!?なんかひざまくらみたいになってるんですけど一体どうしたの士郎くん!?

「し、し、士郎!大丈夫!?」
「ん……、…あれ、おはようマナちゃん…」
「おはよう、って、ああああああ、……ああああああああああ!どうしようううう士郎うううう!」
「え なに、どうし」

まわりの景色は見たことがないくらい、もろに自然のままというか、ド田舎というか、わたしや士郎くんの住んでるとこもたいがい田舎だと思ってたけど、これはほんとに……、もしかしなくてもわたしたち。

「……寝過ごしちゃったよ!!!」
「…え、うそ」

ここどこだあああああああああああああ!確かにわたしはブレーキ壊れろとか言っちゃったけど、こんな、まさか、こんな、まさか……気が動転しすぎてこんなまさかと言い続けてしまいそうである。いや、しかし、こんなまさか。ここ多分終点なんだよね、わたしたちどれくらいの間電車に揺られていたんでしょう?と思って腕時計を見ると11時半すぎでした。あれー、9時には遊園地に着いてるはずだったんだけど。どういうこっちゃ。50分くらいで着くんじゃなかったっけ。もうお昼前?

「し、士郎、今すぐ反対車線の電車で引き返そう!!」
「う、うん」
「それはいいけども、次の電車は明日の朝まで来ねえよ?おふたりさん」

MAJIでかあああああああああああああ!!
わたしがいろいろとショックを受けて車両内でオーアールゼットしたい気分になっていると、横の士郎くんはにこにこ笑って、

「なんだか楽しくなってきたね」

お、おまえは、しあわせなやつだなあ…!!(それどころじゃないのに!!遊園地行けると思ったのに!うわーん!!!)





ブレーブレイク

20100306













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