我らが白恋高校の伝説の生徒になりつつあるわたしの幼なじみ、通称『氷原の皇子』こと吹雪士郎くんがイエスと言ってくださったので、今ならわたし3回どころか14回くらい回ってわんわん言える気がします。すいません無理ですプライドが許しませんそんなの。というか14回も回るとフィギュアスケートの選手でもないわたしは三半規管がおかしくなると思います。うっすいうっすい理科の知識で適当言ってみました。とりあえず14回回る前からわたしは頭がちょっと可哀想な子なのでせめて2回くらいにしてあげてください。……いや回らないしわんとも鳴かないけど。あくまでたとえばなしです。それくらい嬉しいんです。家がふたつとなりの幼なじみでサッカーがすっげーうまくて女の子にモッテモテで優しくて優しくて優しくてもひとつおまけに優しくて、底抜けにかっこいい吹雪士郎くんと、明日、ちょっと遠くにある遊園地に遊びに行けるんです。(やったあ!)

『じゃあ、何時にする?マナちゃんいっぱい乗り物乗りたいでしょ?開園時間ぴったりに着くように行こうか』
「え、でもそれじゃあすごく朝はやくに起きないといけないよ?電車で50分はかかるんだから」
『早起き得意じゃない、マナちゃん』
「いやうん、わたしはだいじょぶだけど士郎くんはそれでだいじょぶ?」
『だいじょうぶだよ』

士郎くんは明るく笑った声で言った。ほんとにだいじょぶなのかな?高校は家から近いからって、入学してからちょっとねぼすけになったの知ってるぞ。まあ士郎くんがゆうんだからだいじょぶなんだと思うけど。ちなみにわたしが早起きが得意な理由はお母さんのせいである。うちのお母さんの仕事は昼から始まるので、朝はいつも遅くまで寝ている。おかげでわたしはお父さんと弟とわたしの分のお弁当と朝食を小学校のころから作っている。長年続けてきたため料理の腕はなかなかなんじゃないかと自分でも疑うくらいだ。例の時期はほんとに毎日士郎くんの家にご飯作りに行ってたくらいだし。すごく理不尽だってわかってるけど、あの時わたしは少し楽しかったのだ。士郎くんは見てるこっちが泣きたくなるくらい悲しい顔ばかりしていたけれど、わたしががんばって作ったご飯を食べるときは笑ってくれた。おいしいよって言ってくれた。だからわたしはコックさんにでもなろうかなんて浅はかな夢を抱いたし、ああなんかこれちょっと新婚さんみたいじゃね?とも思ったし、僕の嫁にならないかなんて言われたらどうしようなんて馬鹿みたいな妄想だってしていた。そんなの。たぶんないこと、今ならもうわかるけど、でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、期待してしまっていたりするから、

「わたしお弁当作っていくね」

なんて、言う。はは、馬鹿。彼はどんどん大人になってゆくのに、わたしはいつまでもいつまでも子どものままだ。見かけも中身も、なあんにも成長しちゃいない。わたしの作ったご飯を笑顔で食べてくれる士郎くんのお嫁さんになりたいな、なんて思っていたあのころのわたしから、なんにも成長しちゃいないのだ。

『ほんと?うれしい、たのしみにしてる』

士郎くんも、お馬鹿さんだよなあ。そんなこと言うからわたしがまた期待しちゃうのに。そんな気ないのは知ってるよ、わたしのこと、ただの幼なじみとしてしか思ってないことも。でも、それでも、わたしは士郎くんがたまらなくすきなのだ。2段ベッドの上段に上がるためのはしごに腰かけて、受話器の向こうの士郎くんにすきだよすきだよって念を送ってみる。もちろん届かない。玄関を飛び出して2軒となりの彼の家のチャイムをけたたましく鳴らして呼んですきだよすきだよって言えば届くのだろうけど、北海道最強のヘタ(以下略)こと氷室さんにそんなことできるわきゃない。雪国生まれのくせにスキーもスケートも才能が皆無なわたし的表現で言わせてもらうと、自ら転びにいくようなものなのである。雪上はともかく氷上はほんと痛い。骨がじいいいぃんって痺れるのがわかる。冬の体育の授業はいつも苦痛です。そして士郎くんはというと、スポーツ万能だからどっちをやってもキャーキャー言われるので、色んな意味で嫉妬しちゃったりなんなりするわたしです。

『あ、じゃあ僕、お弁当のお礼にマナちゃんの好きなコアラのマーチ家にあるから持っていくよ』
「ええええ、まじですか!!!?ありがとう士郎くん!!」
『その代わりいっぱい食べさせてね、マナちゃんの手料理』
「お…!おうともよあたりまえじゃないかよ!リバースギリギリラインまで食べさせてやんよ!」
『リバースしたらもったいないもんね、せっかくおいしいもの食べるのに』
「あ、え、まだおいしいとは決まってないよ士郎くんもしかしたら朝大失敗しちゃうかもしれないし!」
『前失敗しちゃったーって言ってたやつもふつうにおいしかったけどなあ』

し!ろう!!くん!!!おまえってやつは…!!どうしてそうやっていちいちわたしをときめかせようとするんだ士郎くんめ!しかも無自覚無意識だからよけいたちわるいよなあ。まんまと術中にはまってきゅんきゅんしちゃうわたしもいけないけど、聞きなれたあのやさしいこえでそんなこと言われたら、そりゃ心臓も持ちませんよって。そりゃ女の子惚れさせちゃうよって。バレンタインデーに自分のロッカーを開けたとき、あふれ出したチョコレートのビックウェーブにのまれて困ったように笑ってたけど仕方ないよ。わたしが呆れて見ていたら、マナちゃんのが一番おいしいなんて、平然と言うのもいけないんだよ。それがずっと前からたったひとつの本命チョコレートだって知りもしないくせに。

「と、とりあえずじゃあ、そういうことで…ほんとありがとうね士郎くん」
『ううん、丁度練習も休みだったし、遊園地なんて久々だし、うれしいよ。誘ってくれてありがとう』
「い、いいともよ!ほんじゃあした!」
『うん。おやすみ』
「おやすみ!」

息切れしかけていたのは果たしてばれていたんでしょうか。なんにせよ、明日、絶対お弁当失敗しないようにしなければ。はやめに起きれば、失敗したってやり直す時間はあるはずだ。枕元のちっさい時計を鷲掴んで赤い針を4の少し上に合わせた。早起きに自信があるわたしって、こーいうときちょっと便利だと思う。はしごからぴょんと飛びおり、受話器を元の場所に戻して、クローゼットの前に仁王立ちした。何着よう、やっぱりお気に入りのやつにしようかな?女の子らしいかっこの方がいいかな。だとしたら、スカート?でもジェットコースターとか乗ったらめくれちゃう、……じゃなかった、わたしジェットコースター嫌いなんだった。士郎くんはわたしの嫌いなこととか、嫌なものは、絶対に強制したりしないから、ほんとできすぎたやつだと思う。そんな甘やすから調子乗ったわたしにすきになられてしまうんです。 絶叫系乗らないならスカートの方がいいか。あ、でも急流滑りは好きだ。じゃあ下にスパッツはいたらいいんだ。そうしよう。明日がすごくすごく楽しみです。




Happy Call
20100306












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