そういえばあいつのファンクラブなるものが我らが白恋高校にある。練習試合の度に耳をつんざく黄色い声援は彼女たちのものだ。ふふん、しょせんファンクラブ、フェンスの向こう側から手を振るくらいしか出来んだろう。なんて思っていたわたしだけど、この計画が彼女たちにバレたら袋叩きにあいそうで怖くて、正直なはなしガクガクブルブルしています。 が しかしわたしにはもう残された時間というものがあまりないので、ファンクラブ会員たちの視線なんか気にしちゃいられません。 氷室 マナ17歳、ぴちぴちの高校3年生のおんなのこです。嘘です。ぴちぴち部分は嘘です。ほんとはかさかさです。くそあついはずの夏休みだってここ北海道のおひさまはあいつのようにふわふわしててちっともメラニン生成に貢献しようとしないので、このかさかさお肌は言い訳のしようがなくて困る。チクショウあいつ日中ずっとグラウンドで丸い球蹴っ転がしてるくせにおんなのわたしより白いんだからほんとやんなっちゃうわ。 それはまあいいとして、自分の部屋におかれた電話の子機を握りしめて早20分強、ヘタレチキンにも程があるぞわたし。だいじなことはちゃんと言葉で伝えたいなんて調子こいた信念を貫き通そうとして絶賛後悔中でございます。黙ってメールにするべきかなあと思ってディスプレイに浮かぶ新規作成の文字を何度も見つめてみたのだけど、文系のくせに国語がまるでだめなわたしはなんと打てばよいのかわからなくて結局携帯を閉じるのだ。 あーあ。こんなことになるんならいっそそんなに得意じゃないけど苦手でもない英語を選択してペラッペラ話せるようになっておいて、仕方ないからわたしが通訳さんとして付き添ってあげたっていいわよくらい言えるようになればよかったかしら?なんて。たとえそうなってたって、ついていくって言ったって、あいつは首をたてには振らないだろう。困ったように笑って、それは無理かなあ、って。ああもう、とにかく今はでんわだ、でんわ。明日ちょっと遠くに遊びにいきませんか? わたしのがきっぽい趣味のアトラクションやゲームに付き合ってくれませんか? というかぶっちゃけ遊園地デートしませんかって言えたならこんなに手汗かかないんだけど。子機の背部分がびっちょびちょである。ぜんぶあいつのせいだ。サッカーがむだにうまくて、中学のときから東京のチームに引き抜かれて一時期話題を独占してた恐怖の宇宙人たちと戦って勝って日本を救ったりフットボールフロンティアインターナショナル略してFFIとかゆう大会出ちゃってしかも優勝しちゃって、サッカー界のお偉いさんの目に留まって気に入られて。プロサッカーチームからぜひうちのチームに入らないかとか何回も誘われて、世界をとりにいかないかとか言われて、もっと強くなりたいとか言い出して。ずっとずっと小さいときからいつもそばにいたわたしを放って外国に留学することに決めて。薄情なやつだ。小さいころ、あいつがクラスのガキ大将に目を付けられてたとき、体格が倍くらいあるそいつと殴りあいの大喧嘩して助けてやったり、お父さんとお母さんと敦也くんが亡くなったとき毎日毎日家に行ってご飯作ってやったり、サッカーばっかりしてるせいで成績下がってわたしと同じ第一志望の白恋高落ちるぞって担任に言われたとき自分の勉強を捨てて深夜まで教えてやったり、とにかく色んなことを、となりで、してきたのに。そんな大恩あるわたしを捨ててあいつは遠いところへ行ってしまう。いくらなんでもひどいと思う。 中学にあがる前、お互い携帯を持ってなかったから、用事があればいつも押してたあいつの家の電話番号。アドレス帳ひらかなくても、ボタンを見なくても、指はひとりでに押してくれる。ぷるるるるる、という呼び出し音。心臓がばくばくしている。

『はい、吹雪ですけど』

薄情ものでもひどいやつでも、幼なじみのわたしよりサッカーをとるような男でも、声をきいただけですきだすきだと思ってしまうのは、惚れた弱みとかなんとかで仕方ないことなのだろうけど。 それにしてものんきな声だな。ふはははばかめ、おまえは明日わたしに休日を乗っ取られるがいいさ。この北海道最強のヘタレチキンこと氷室さんが手に汗だけにとどまらず ワキにも汗 背にも汗な状態でおデートのお誘いをするんだから、ノーなんて言ったらただじゃすまないわよ。主にわたしの精神と涙腺が崩壊してただじゃすまないわよ。

『もしもし?…マナちゃんでしょ?』

…畜生すきだ。どうしようもない。





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20100305












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