SUICIDE
2段ベッドから脚を投げ出して真っ白いだけの天井を見つめていた今日も空はきっと青くて、ああわたしの心のなかみたいに彼の色で塗りつぶされているんだなあとおもった。
ふたりでいれた日々はすれ違ってた日々の何分の一なのか、考えはするものの計算をしてはっきりと答えを出したことは一度もなかった。
たぶんこわいんだとおもう。
認めたくない離別を決定づけるような数字ならわたしはそれを憎むし、恨むだろう、だけどそうしたとして、あの日々も、彼も、なにひとつわたしのもとに戻ってきたりはしないのだから、結局のところその刺々しい感情を抱くことに意味なんてないのだ。
こんなことになるならいっそすれ違っていた頃のままのふたりでよかったかもしれない、なんておもうけれど、どうせ時間は巻き戻ったりしてくれないわけで。
もう充分に行けるはずなのに言い訳して学校を休んでひとり寝そべって見たゆめにどうして彼が出てくるのだろう、わたしはまだ未練があるとでもいうのだろうか。
太陽が沈んで大嫌いな夜闇が包み込んだって彼がとなりにいたときは笑えていたのに、目を開くと自分しかいなくてたまらなくこわくて泣いてしまったわたしはきっと彼に出会うまえのわたしからなにも変わっちゃいなかったのだ。
「――しにたい」
昔彼がよく言っていたことばを口にしてみた。
彼じゃなきゃ誰がわたしをしあわせにしてくれるというんだろう、わたしなんて放っておいたらいとも簡単にしんでしまうというのに。
「しにたい」
明瞭のなかに巧みに隠れた白い嘘、混沌のなかであなたを守る赤い嘘。
『ひとりでも生きていけるというの?"わたし"はもう必要ないの?』問いかけて答えを聞かずに殻のなかに閉じ籠った。
見開いた瞳に映る彼の色は淡く儚いのに、決して消えない染みのようなこの記憶。
ふわり空に舞っていった桜とわたしの名前を呼ぶ声がすごく似ていたことを早くに気付いてはいた癖に勿体ぶったのはわたしの方。
誰と重ね合わせたとしてもわたしを捕らえる獣はたったひとりしかいないこと、それはずっとまえからわかっていたはずのこと。
青い青い空のした、鎖骨に落ちた花弁がぜんぶ枯れてしまったらもう一度咲かせてほしいと願った、ある春の終わり。
(もういない愛しいひと)