敦也×ストーカー




変なやつだと思っていた。

おれが小学校から帰るとちゅう、なんとなく視線を感じてふりかえってみると、そいつは必ずと言っていいほどの確率でそこにいた。おれのちょうど10歩うしろくらいで、ブロックべいにぴったり寄りそうみたいにして立っている。 目がぐりぐりと大きくて、小柄で白くて細い、とてもかわいらしいやつだったけど、おれは兄キとちがってあんまり興味がなかったから、いつもそいつを無視してすたすたと家まで歩いた。家の門に手をかけたとき、またふりかえってみると、そいつはいなくなっていた。 はじめのころは、そいつも家がおれとおんなじ方向なのかと思っていた。だけどどうやら違うらしい。

「おまえ、それ、ストーカーっていうんだぜ」

そんなことが2週間くらいつづいたある日、おれはくるりとうしろを向いて、そいつに言ってやった。そいつは大きい目でじっとおれのことを見つめたまま、言いわけはおろか、返事さえせず、だんまりを決め込んでなんにも言わなかった。おれは はあ、とため息をついて、また前を向いて歩きだした。うしろからはやっぱりまだ、いつもの足音がきこえる。 もう好きにすればいい、 となかば投げやりにそう思った。



*



「……ねえ、あつや。あの子すごくあつやのこと見てるけど」

またある日の帰り道。
久々に兄キのしろうといっしょに帰っていた。だけどそんなこと関係ないらしく、今日もあたりまえのように、あいつが10歩うしろにいる。 「……もしかして、あの子あつやのことが好きなのかな?」 「しらねーよ、そんなの。だってあいつ、おれがせっかく話しかけてやっても無視したんだぜ」 「照れてるんだよ、きっと」 「はあぁ〜?」 しろうがあんまりのんきにそう言うので、おれは顔をしかめた。 ……なんだよ、それ。 おれのこと好きなんだったら、いつもいつもうしろからついてくるだけじゃなくて、もっとだいたんにアピールしてこいってんだ。 だって、このまんまじゃあいつ、ほんとにただのストーカーだぞ。ストーカーってのは、当然だけど犯罪だ。あいつはそれをわかっててやってんのかな。



*



それから2日たった。

おれの住んでるところでは久々に、かなりの大雪が降って、学校は1日休みになった。おれはよろこんで、出されていた宿題を丸投げして家で兄キとゲームにうちこんだ(まあ兄キはあいた時間で宿題もちゃんとやってたけど)。 次の日、積もった雪をかきわけて遊びながら学校へ行った。めんどくさい授業を適当に聞きながして、帰り道。家についたら、庭に積もってる雪で兄キと雪だるまでも作ろう、とわくわくしながら道路の雪をふみしめる。 ふぎゅう、ふぎゅう、 という、雪をふんだときの独特の足音はおれのものだけだった。 ふと、うしろをふりかえってみた。 あいつが、……いない。 おれは自分の心臓が急にどくんどくんとうるさくいいだすのを感じた。 あいつがいつもおれのうしろにあらわれる曲がり角のところまで引きかえす。 ここにもやっぱり、あいつの姿はない。おれはあたりを探した。だんだん、太陽がしずんでって、空がくらくなってきたのもおかまいなしで探しつづけた。とにかくいろんなところを手当たりしだいに探した。 ……そして、ついに見つけた。 古っぽいア
パートの下にある、小部屋みたいになったゴミ置き場で、あいつはちょこんとうずくまっていた。屋根がついているから、たぶんここで雪のなか一晩すごしたんだろう。

「おい、おまえ、だいじょぶか」

もともとちっさいあいつはがたがたとこきざみにふるえていた。きっと、すごくすごく寒くて、そしてさびしかったんだろう。 あいつの大きな黒い目がいつかのようにおれをじっと見つめた。おれはなるべくやさしくわらって、言った。 「おまえ、おれと来るか?」 腕のなかに飛びこんできたあいつのからだは雪みたいにつめたい。いますぐあっためてやらないといけないなと思った。家につれて帰ったら、兄キはよろこぶだろうけど、父さんと母さんは怒るかな?でもこんなとこに放っとくわけにはいかないもんな。 どうしようか考えていたら、おれに抱きしめられたままおとなしくしていたあいつがぺろりとえんりょがちにおれの鼻をなめた。 濡れた鼻のあたまに空気がふれてひんやりとする。 「おまえそんなにおれのことが好きなのか?」 あいつはふさふさとしたしっぽをぶんぶんふって、 「わん!」 とひとこと。




ける雪






「わーいぬだー」
「おいこら、勝手にそうだにさわんなよ兄キ」
「えー、なんで?」
「こいつはおれにほれてるんだ」

そうだの首で、おれの手書きのネームプレートがきらりと光った。




20100625



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す、すいません
初敦也夢がこんな話で…!










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