明王ってどこの中学校なのーと朝食中何気なく聞いてみたら 「帝国」 と短く返ってきたときのわたしのむせ方ったらもうお嫁にいけないくらい豪快。 「っげえっほげほげほ!うええほえほっぐふっ」 「汚ねーな」 お、おまえなあ!誰のせいでこんな……!い、いやまあいい、し、しかしまさか明王が、明王なんかが、あの有名校帝国学園の生徒だとは……!超エリートじゃねえか……!明王なんかこんなナリなのに!頭とか校則違反にならないのか!?お姉さん超しんぱい 「で、お前はどこなんだよ」 「え?傘美野」 わたしが答えたら、明王はいかにも あぁ…… っていう顔をする。な、なんだよ!そりゃ帝国の高等部には負けるけどうちの高校だってそんなに頭悪いわけじゃないんだからね!そんな顔されなきゃいけないほど馬鹿じゃないんだからね!!

「わ、わからない問題とかあったら教えてあげるね明王!」
「ハァ?お前頭イカれてんのか」
「いやそれはさすがにそのヘアスタイルの明王には言われたくない」
「お前殴られたいか」
「めっそうもございません」

なんてね!明王なんて怒ったって別に怖くなんかないわ。なんたってわたしの方が3つも年上!大人の余裕ってやつ。中2程度のガキんちょになめられてるのはちょっと納得いかないけど、それくらいでキレるような心のせまい女の子じゃない。事実ほらこうやって生意気な明王との共同生活をなんなく過ごしていくことができているわけだし!すごいぞわたし!

「明王はクラブとかやってんの?」
「…………サッカー、」
「おおサッカー!?帝国のサッカー部ってことはすっごい強いんじゃない」
「まあ」
「あっ明王いま照れたね!」
「黙れ」
「……ちょっと、あのね明王、わたし仮にも年上!もっと言葉遣いとか――」
「年上?」
「……え?」

明王は驚いたように目を見開いてわたしを見る。なんだかきょとんとしているというか、とにかく固まったまんまで。 ……え、待って、明王もしかして。

「お前、何歳」
「今年で17」
「……高校……生……?」
「……ちょっと待て明王おまえまさかわたしが中学生だとでも思ってたのかコラ」
「むしろ年下でもおかしくねえと思ってた」

わたしのなかのなにかがどっかあんと激しく噴火した。な、なんだとこの野郎!わたしが!年下だと!だからあんな生意気な行動の数々を繰り返してきたのだな!なめやがって!わたしはまごうことなき高校2年生だ!明王より3つもお姉さんだ!ふざけんな!! 「そんな子に目玉焼きはあげません!」 明王の皿から目玉焼きをかっさらったら 「てめえ大人気ねえな!」 と怒鳴られたのでやっぱりこいつ子どもだ!と思った。





*





がちゃり、自分の家のドアを開けるのにこんなに緊張したことなんていまだかつてあっただろうか?靴を確認したら案の定明王はまだ帰ってきてなくて(まあわたしは明王と違って帰宅部だし)、ほっと一息ついてから両手にさげた買い物袋をどさりと置いた。あのくそ生意気な明王にぎゃふんと言わせるとしたらこれしかない!のだ!
わたしはひとりでふっふっふっと不敵な笑みを浮かべキッチンへ向かった。見さらせ!これがわたし 星野みつか の実力なり!





「気持ちわりー」

エプロン姿で出迎えたわたしに明王は一言そう言いはなったのだけどいつもの2割増し寛大なわたしは笑顔で 「ご飯できてるよ!」 と言いながら明王の制服の袖をひっぱった。まあ予想済みでしたがすごく嫌そうな顔をされました。でもわたしめげない!とばかりに明王をぐいぐいとキッチンまで連れていった。 テーブルの上に並ぶのはわたしお手製のスペシャルグラタンと特製ソースたっぷりのパスタ。ふふん、わたしだって伊達に今まで『ほぼ一人暮らし』をしてきたわけじゃないのよ!料理の腕ならそのへんの主婦になんか負けやしないんだから!さて気になる明王の反応は、

「こんなにいっぱい誰が食うんだよ」

げんなりした声。呆れてる顔。…………なによ、……なんでほめてくんないの。すごいって言ってくんないの。わたし、がんばって作ったのに―― 「もういい」 キッと睨んだら明王は意味がわからないという顔でわたしを見た。 「じゃあ明王にはやんない。全部わたしが食べる」 がたん、荒々しくイスに座って、フォークでパスタを巻き上げた。 「あーうま!うま!最高!さすがわたし!」 ばくばくばくとみっともない食べ方をしていたら 「何拗ねてんだよ」 とかなんとか言われたけど無視。もう知らない、明王なんか餓死したらいいんだ。 「……ったく、ガキだなお前」 明王はお父さんの席――、いや臨時で明王の席になったわたしの前のイスに腰かけ、フォークをひっつかむ。 「なによ、食べなくていいわよ明王なんか」 「馬鹿野郎部活疲れで腹減ってんだよ」 グラタンにぶすっとフォークを差し込み口に運んだ――、と思ったら途端に明王は苦しそうにもがきはじめるもんだからわたしもパニック。 「え、えっ!?うそ、やだ、グラタンまずかった?失敗?なんか入ってた?それともアレルギー!?ごめん明王大丈夫!?」 ばたばたばたばたしている明王に慌ててかけよったら、途切れとぎれに 「みず」 と言われた。は、はいわかりましたー!!!





「だ、大丈夫?明王」

声をかけたら、涙目の明王ににらまれた。う、うわああああやってしまった!怒らせてしまった! そんなにグラタンまずかったんだなあとショックを受けていると、明王は再びフォークを手にグラタンと向かい合った。

「えっ、い、いいよ無理しなくても!」

わたしが食べるのをとめようとした瞬間、明王はフォークの上のグラタンに向かって息を吹きかけた。………………ん?

「あ……明王?あの、つかぬことをお聞きしますが、あなたもしかして」
「うるせぇ」

ふーふーしたグラタンを口に運ぶ明王は今度は暴れない。わたしは確信した。このこ、猫舌だ!

「あ、明王かっわいい……!!」
「は?寝言いってんなガキ」
「明王かわいい!!」

後ろからぎゅうと抱きついたら 「やっやめろブス!」 と激しく振り払われてしまったのだけど、そう言う明王の耳はまっかっかでとてもかわいかった。数分後グラタンもパスタも平らげてくれた明王を見つつわたしは1週間なんかじゃなくずっといてくれてもいいんだけどなあ、なんて、思った。



グラタンとパスタと2日目








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テーマ「人外ファンタジー」
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