冬の太陽は眠るのが早くて、僕らはすっかり暗くなってしまった道をふたり並んで歩いていた。吐き出した白い息が街灯に照らされてきらきらひかる。なまえは鼻を真っ赤に染め、今日の出来事を楽しそうに話している。僕はそれを、うなづいたり相づちをうったりしながら聞いていた。道は除雪され、脇には雪の壁が出来ている。時刻は6時半すぎくらい、あたりに僕ら以外の人影は見えなくて、なんだかすこし世界から浮き出たような、そんな感覚がする帰り道だった。
僕はさっきから、ゆらゆらと揺れているなまえのマフラーのはしっこがなんだか気になって、目で追ってばかりいる。

「さむいね、士郎」

なまえがそんなことを言うのは珍しかった。雪が降るとコートも羽織らず校舎から飛び出していく彼女だ。そんなに寒いのかなあとすこし不思議に思いつつも、そうだね、さむいね、と返す。
ぽつん、ぽつんと、街灯が道に丸い光を落っことしている。僕らは他愛ない会話を続けながら、そんな道をただただ歩いていた。
なまえの首にひっかかっているイヤホンからは音がしていない。そういえばこの前、壊れて片方聞こえなくなったって言っていた気がする。

「さむい」

さっきよりなんだかすこし低い声でなまえが呟いた。ああ、そうか、わかった。なまえは今日、いつもの手ぶくろをしていないのだ。

「使う?僕の」

僕がそう聞いたら、なまえは首をかしげる。 「何が?」 「てぶくろ」 僕が答えると、なまえは一瞬びっくりしたように目を見開いて、それから、なぜか眉間にしわをよせて、 「もう」 と少し怒ったみたいに言う。僕はわけがわからず、え、え、と口から漏らす。

「士郎の鈍感」
「う……ん?」
「ん!」

なまえが立ち止まって、僕に手のひらを突き出す。そして、僕はやっと理解する。
ぱし、と掴んだなまえの手はあたたかくて、どちらかというと僕のほうが冷たいくらいだった。そのまま歩き出してしまったなまえは何も言わないけれど、これが照れ隠しだってことはもう知っている。 素直に手がつなぎたいって言えばいいのになあ、と思い、僕はこっそりわらう。でも僕はなまえのそんなところもだいすきなのだ。

「……ねえ、なまえ、そのイヤホンまだ使うの」
「使うよ」
「どうして?壊れてるのに」
「お父さんに直してもらう」
「新しいの買えばいいんじゃない」
「これがいいの」
「ふうん」

僕があげたやつだから?
少し意地悪に言ってみると、なまえは数秒後に 「そうだけど」 と小さい小さい声で返してきて、僕はなまえを抱き締めたくてたまらなくなって。つながった手をぐいと引っ張るとバランスを崩したなまえが わあっと声を上げながら後ろ向きに倒れ込んでくる。僕はなまえをしっかりと受け止めて、擦り寄せるみたいに抱き締めた。

「び、びっくりした、なにすんの士郎」

腕のなかでもがくなまえは小さくて弱くて、僕があんまり力をいれたら壊れてしまいそう。

「なまえがすきだなあと思って」
「な、なにそれ、」
「そのままの意味だけど」

なまえは、可愛い。時々、可愛すぎてもうどうにかしてやろうかと思ってしまうくらい可愛い。なまえに嫌われたくない僕はたいしたこともできないけど。 道端でなにすんの士郎はまったく、と呆れ気味に呟いたなまえともう一度手を繋ぎ直して、その手のあたたかさがやっぱり愛しくて。この子は僕を堕落させるために送り込まれた最終兵器かなにかなんじゃないかと真剣に疑う。なんて。昨日の晩見てたアニメの影響を受けてるな、僕。

「すきだよ」

なまえがぽつんとそう言って、僕は顔を上げる。

「ごめん、今なんて?」
「にども言わない」
「そこをなんとか」
「いやっ」
「僕のことすきなんでしょ?」
「しっかり聞こえてるじゃん!」

顔を真っ赤にして振り返るなまえを見て思わずわらってしまう。 街灯の間を僕らは歩く。曲がり道も別れ道も通り過ぎて、僕らは今日も少しだけ遠回りをして、帰る。


36度5分で支配





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