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ぴんぽーん。

ボタンを押したのは僕なのだから、そんな音がなるのは当たり前なんだけど、思わず身体がはねてしまった。ああああ、押してしまった……!こ、これ、なまえさんじゃなくてなまえさんのお母さんとかお父さんが出たら僕どうしよう?か、彼氏とかじゃないし、いや今日これから彼氏になりたいけどまだ彼氏じゃないし、あいさつとかどうしたらいいんだろう。 やばい喉がカラカラする 『……はい?』 わあ出た!っと、なまえさん、かな?にしてはちょっと声が高すぎな気がするけど、インターホンごしだからこんなものなのかな。

「えと、吹雪、ですけど」
『ふぶき?……あぁー、あの吹雪くん?ちょっと待ってくださーい――おーい、ねーちゃーん!カレシ来てるよ、カレシ!!ねーちゃんまだ髪セットしてんの?吹雪くん来てるよ――、あ、すいません、ねーちゃん用意遅いんもんで。なんかすっごいめかしこんでんですよー、はりきっちゃって。あ、あたし妹です』

な、なんだ、妹さんだったのか。どおりで……いやそうじゃなくて!なまえさんに彼氏だなんて言って、嫌がられてたらどうしよう!ヤダー吹雪くん彼氏なんかじゃないしとか思われてたらどうしよう!それはつらい!いまから告白する気でいた僕的にはつらい! ……に、してもなまえさん、はりきってるってほんとうかな。僕のため……ではないことは明確だけど、たぶんいつもの5割増しくらいかわいいはずだから、心の準備しとかないと心臓に負担がかかるよね。今日のなまえさんはすごくかわいい、今日のなまえさんはびっくりするほどかわいい、今日のなまえさんは僕にはもったいなさすぎて見れないくらいかわいい、 「ごめんね吹雪くん!遅くなっちゃった!」 心の準備なんてまったく無意味でした。玄関から飛び出してきたなまえさんはなんというか、なんというかもうエンジェル?ヴィーナス?とにかく僕はまともな言葉が出ない。

「あっ、やっ、えっ、うっ」
「ふ、吹雪くん?だだだいじょうぶ?どうしたの?」

口をぱくぱくしてる僕になまえさんがかけよってきて、なんだかお花畑みたいなふわふわとしたあまくていいにおいがして、思考回路が正常にはたらかない。

「吹雪くん……?」

なまえさんは僕よりすこし背が低いので、必然的に上目遣いになって、それがもう殺人的で。鼻血とか出たらどうしようという情けないことをふらりと考えた。

「い、いや、なんでもないんだ、だいじょうぶ」
「そ、そう?ならいいんだけど……」
「う……うん、えっと、じゃあ、い、行こうか」
「あ、っと、うん」

はあ、もう、だめだ直視できないよ。かわいいとかそういうレベルじゃない。何通りもの水色のゆかたを着たなまえさんを想像してはいたけれど、想像のななめうえのかわいさで攻めてこられたもんだからもう、もうもうもう。明るいゆかたの色はたしかに僕の髪のに似ていて、これでもかとばかりにそこに咲きほこる花々はほんとうにきれいだった。きちっとしめられた帯にはしゃらしゃらした帯留めがついている。そしてアップした髪にはちりめんでできたかざりをつけていて、そして白い肌にはほんのりチークが乗っていた。日が沈みはじめて若干薄暗くなったなかでも僕はちゃんとぜんぶ目にやきつけた。どうしようもないくらいかわいくて、困る。 からんからん、と、なまえさんの下駄が音をたてた。

「よ……横乗りになっちゃうけど、だいじょうぶ?」
「うん、だいじょうぶだよ」
「それに、わたし重いし」
「そんなに細いのに」
「ほほほほそくないよ……!」
「ふふ、さあ、乗ってなまえさん」
「あ、よ、よろしくお願いします!」

なまえさんが、僕の自転車の荷台に遠慮がちに腰をおろす。空気みたい、は言い過ぎだけど、ほんとにぜんぜん重くない。なまえさんちゃんとごはん食べてるのかなあ。 「しっかりつかまっててね」 「う、うん」 なまえさんが控えめに僕のシャツのせなかをつかんで、僕はまたきゅんきゅんしてしまう。ほんとに、この子は……。僕はペダルをぐっと踏み込み、期待と不安とを抱えながら、お祭りのある神社へ、しっとりとした空気をきった。




20100815


まだつづきます





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