きらきら、光の帯が彼を照らす。なんだか変なかんじだ。ふわふわした彼の髪をそっと撫でながら欠伸をひとつ。はやく起きすぎたなあ、と思いながら、床の上にほったらかしだった携帯電話を開いた。お母さんからの着信件数が二桁をこえていた。Cメールもたくさんきている。こりゃ、帰ったらこっぴどく叱られるなあ。 だけど、わたしの心は何故だか、ひどく穏やかだった。たぶん彼がとなりで寝ているからだと思う。



涼野くんが高熱を出したと基山くんからきいたわたしは学校が終わってすぐ校門から飛び出して、コンビニでひえぴたとゼリーとプリンを買い(ゼリー派かプリン派かわからなかったから両方買った)、彼が住むお日さま園という施設へとチャリをぶっ飛ばした。赤信号を3つくらい無視したけれど幸い命に危険はおよばなかった。ものすごい剣幕であらわれたわたしに瞳子さんはびっくりしていたけれど、すぐににこりと笑って、涼野くんの部屋にとおしてくれた。ベッドに横たわっていた彼はわたしの姿を見て目を丸くしていた。 「き、きききききみ、きみどうして」 あのクールな彼があんなにうろたえるのをわたしははじめて見た。 「熱出したって聞いたから、」 お見舞いにきたの、と言って、手に持っていたコンビニの袋を見せると彼はぽかんとして、 「え、え、」 とばかりくり返す。どうやらかなり予想外だったらしいんだけど、結果的にゼリーとプリンを『あーん』できたわたしはすっかり舞い上がってしまった(おなかがすいていたらしい涼野くんはどっちも食べたいと言ってくれたのだ)。 それから彼といろいろな話をして気づいたら日が沈んでいて、ああもう帰らなきゃって言って、そのあとどうしたんだっけ。

「涼野くん……」

前髪をそおっと持ち上げて、彼の額に触れてみた。 ひんやりとしていた。 よかった、熱はひいたみたい。

うれしはずかし朝帰り、なんてもんじゃないけど(わたしが勝手に寝ちゃっただけだから)、朝起きたらなぜか涼野くんのベッドで、つまり彼のとなりで寝ていて、一瞬頭がまっしろになった。やさしい彼が眠ってしまったわたしを気づかって引き上げてくれたんだと思ったら、もうなんだかいろいろと恥ずかしくて地面にめり込みたくなった。涼野くん、てば。そんなことしたらわたしに襲われちゃうぞ、なんて。まあそんな度胸持ち合わせてないんだけど。
「ん……なまえ……?」

その声にぴくり、肩がはねた。涼野くんがうっすらと目を開けていた。あわてて額に当てていた手をはなす。

「お、おはよう涼野くん。よく眠れた?」

言ってから気づいたけれど、となりにわたしがいたんだからよく眠れたはずがない。わたしはみょうじ家のなかでもトップクラスの寝相のわるさなのだ、きっと寝苦しかったにちがいない。そう思って、 「ごごごごごごめん涼野くんあのわたしが寝相があの」 と申し訳なさで激しくどもりながら言ったら、まだとろんとした目をした涼野くんが(眠そうな涼野くんなんだかかわいいな) 「ねぞう……?」 と少し首を傾げながら尋ねてきたのでわたしはもうきゅんきゅんしてしまってたいへんだ。

「や、えっと、わたし寝相悪いから、涼野くんあんまり眠れなかったかなって」
「ああ……、いや、大丈夫だよ」
「そ、そう?よかった」

もし蹴りでもいれてたら一大事だった、と考えていたら、涼野くんがおもむろにわたしのほっぺたに手を伸ばしてきたのでどきりとした。昨日とは違って、彼のてのひらはひやっこい。

「ゆめをみていたんだ」

涼野くんが、ぽつんと呟いた。

「どんなゆめ?」

わたしが尋ねると、涼野くんは薄く笑って、 「うん、」 朝の光に同化してしまいそうだと思った、 「きみが、白いドレスを着ていた」 思わずほっぺたにある彼の手に自分の手を重ねた。 「私はきみに指輪を渡して、それからキスをした」 涼野くんは、たしかにそこにいた。わたしは妙にうれしくなって、泣きそうだと思った。

「……それで、どうしたの?」
「途中で、わたしたちはまだ中学生だったのを思い出して」
「うん」
「ああじゃあこれは夢か、って」
「……うん、」
「正夢になればいいと、思ったんだ」

涼野くんがゆっくり起き上がって、わたしにそっとキスをした。今度はわたしがゆめを見ているみたいだ。こんな幸せなゆめ、めざめるのが名残惜しい。

「すきだよ、きみが」

ぎゅう、と抱きしめられて、心臓はもうどきどきばくばく、わたしは頭がショートするんじゃないかと内心怯えながら彼の背中に手を回した。思っていたよりも広くて、また、どうしようもないくらいどきどきした。涼野くんはかっこよすぎるのだ。

「ありがとう、うれしい」「そう、か」
「わたしも、涼野くんがすきだよ」
「知ってたよ」
「なんだそれ」

ほんとに正夢になれば、いいなあ。 「涼野くん」 「なんだ」 「もう1回、してくれないかな」 「ん、」 彼の唇は手のひらとおなじようにひやっこくて、心地よかった。わたしはやっぱり、彼をたまらなく愛しいと思って、ゆめみたいで、目が潤んできて。 「なんで泣くんだ」 すこしあわてた様子で涼野くんがそう言って、わたしはぐちゃぐちゃの顔で 「ほんとに、すきなの」 と言うくらいしかできなくて、ああもう。 「うん、私もだよ」 なんて返されたから、うれしくてうれしくて、涙がとまらない。





水蜜桃はゆめをみる
20100805



みつきさまにFor you!
ゆめみるふうすけにぎゅーされるお話でした
い、いかがでしょうか…!!
苦情書き直しばっちこいですリクエストありがとうございました!








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