※R-15ぽいです



「おうっ」

思わずそんな声が出た。

「これ……あいつのだよな……」

こちゃこちゃと刺繍がほどこされたつるつるの生地に白いレースとリボンがくっついているそれはまあいわゆる、ぶ、ぶ……、……お、おんなもんの下着(上)。……ったく、ほぼむりやり泊まっていってこんなもん洗濯機つっこんでいきやがって、あいつは。 あいにくだけどおれはこんなへんなかたちの布なんざ興味ねえ、まあでも仕方ねえから干してやるか、はっはっはおれちょう優しいちょういいやつ。どうやら肩ヒモらしい部分を指先でつまんで蛸足ハンガーにひっかけようとした、 「おふっ」 目に飛び込んできたアルファベットと数字に思わずそんな声が出た。 え、え、えふ……えふのろくじゅうご……? うそだろあいつ……あんなほっせえのに……えふ……? ちっせえころ牛乳の代わりに豆乳飲んでたのかあいつ? 大豆イソフラボンが発育を促進させるとかなんとか聞いたことがあ……いやなんでもない。おれはそんなこと知らないし興味ねえ。でっけええぇなんてこれっぽっちも思ってない。というかこんなことをしている場合じゃない、おれは昼12時までに洗濯と掃除を終わらせ晩飯の仕込みをしてバイトに行かなければならないのだ。学校がない日だからと行ってのんびりしているわけにはいかない。たとえ昨晩いきなり高校時代のクラスメートであるあいつがのりこんできたからといってその生活リズムは崩してはいけないものなのである。もしそんなことになったら、雑把にみえて実は几帳面、な南雲晴矢の名折れなのだ。

「さて作業再開……っおおふ」

今度はさっきのとおんなじ柄の三角の布を手に取ってしまった。 う、わ……、なんだコレ、面積せまっ。おんなもんの下着(下)ってこういうもんなのか……? 薄っぺらいしなんかちょっとしたことでみえてはいけないものがみえてしまいそうだ。というかサイドのこの白いリボンはいったいどういう意図でこんなふうにつけられているんだ?こんなん、もしするっとほどけたりしたら……脱げるんじゃないのか……? 大事な講義中にするっとなったら……どうするんだよ、コレ……。どうしてんだあいつ……だいじょうぶなのか? となりに男子がいたりしたら……だいじょうぶなのか……!? …………………………家!事!おれ!! こんな布なんざさっさと干しちまって掃除機かけてシチューの仕込みしてちょっとだらけてそのあとバイトに行く!んだ!おれ!




*




「おいこらなまえ」
「あらおかえり晴矢。シチューならおいしくいただいたよ、腕あげたんじゃない」
「ただいまそりゃどうも、とりあえずベッドからおりやがれ」
「ごはんにする?おふろにする?それともわたしにする?それよかわたしにする?あ、なんならわたしでもいいけど。え、やっぱりわたしにする?え?わたしにしとくの?うんいいわよさあカモン晴矢」
「もう帰れよおまえ」

ベッドの上でなにやらポーズを決めているなまえはまあ放っとくことにして、おれはキッチンのコンロにのっかった鍋のなかをのぞきこむ。あんなにあったシチューがもう半分以下しかない。いったいどれだけ食いやがったんだ、このおんな……。

「あっ、晴矢、それあんまりかきまぜないほうがいいとおもうよ」
「は?」

がりがり。

鍋のなかのシチューをおたまでぐるりとまぜるとそんな音がした。底のほうがどうなっているかなど容易くわかったので、いまだベッドの上にいるなまえのほうにどすどす歩いて向かった。

「てめえ勝手に食って鍋焦がすたあいい度胸だなオイ」
「いだだだだだだだだいたいいたい晴矢、いたいやめてばかになっちゃう」
「だいじょうぶだろおまえもうじゅうぶんばかなんだから」
「ひどい!いまをときめくぴちぴちギャルになんてことを」
「ぴちぴちギャルは大抵ばかって相場が決まってんだよ」
「おまえそれは偏見だぞ!ぴちぴちギャルに対する偏見だぞ!」
「うるっせえ外放り出すぞ馬鹿」
「こんなけなげな美少女がひとりで外歩いてたら襲われちゃうじゃないか!」
「てめえなんかだれが襲うか」

色気もねえくせに、と言おうとして、朝方見たなまえの下着のタグに書いてあったアルファベットと数字を思い出して思わず口をつぐんだ。いろけ……は、無駄にあるが、こんな馬鹿……いや馬鹿だからこそ狙われやすいのか……?だとしたらこんな夜中に追い出したらちょっと本気でヤバイかもしれねえ……のか……?ああああもうなんだかおれこいつの思うつぼじゃねえかこれじゃあ。だめだだめだこのままじゃ。

「ね、晴矢、やっぱりわたしにしとかない?」

なまえはおれの服の袖をひっぱってベッドの上にひきあげようとする。おれはこれでもかというくらい顔をしかめてなまえをにらんだ。自分で言うのもなんだが真面目なおれは、なまえのこういうところがきらいなのだ。

「あのなあ、おまえ、そういうのはすきなやつとしろよ、すきなやつと」
「だから、晴矢としたいの」
「は」
「だめ?」

油断していたらいきなり強い力でひっぱられおれはなまえの上におおいかぶさるように倒れこんだ。……おいおいおい、ちょっと待てよ。おまえそのガリガリのからだのどこにんな力秘めてんだ、いやそれよりもこの状況はマズイ。どれくらいマズイかっていうとまあこいつに焦げ付かされたシチューくらいマズイとおもう。そういや高校時代なまえを好きだったあいつはどうしてるかな、なんてふと考えた。いや別にあいつはもう新しい恋をしてるだろうし罪悪感なんてないけど。なまえのことをすきだった期間ならぜったいおれのほうが長いとおもうし。こう見えておれはちょう一途なのだ。

「……優しくはしねえぞ」
「晴矢が優しいのなんて想像できない」
「失礼なやつだな」

なまえはくすりと笑って、からかうみたいに小さくキスをしてきた。挑発だと受け取ったおれは容赦なくなまえのやわらかい唇に噛みついた。ふんわりといい匂いが鼻をかすめて、あ、我慢とか無理だな、とおもった。なまえのこの匂いにあの日どれだけ恋い焦がれたことか。

「はる、やっ」
「ここ壁うっすいんだからあんま声出すなよ」

まあ別にいいけど。たぶんもうすぐ一戸建て買うし。真面目にバイトし続けてきて正解だったよな?おれ。ほらだっていま嫁さん捕まえました、やっとです。5年くらい片想いしたか?いやたぶん高校卒業するときくらいにはこいつはもうおれのこと気にしてたとおもうんだけどどうだろうな。

「なまえ、すきだ」
「言うの遅い、よ」

ずっと待ってたのに、となまえがつぶやいて、おれはちょっと後悔した。だけどそれがどうした。 ぱちん、と背中がわの留め金を外したらまたもやF65とあった。でっけーなとおもったので素直にそう言ったら、 「ちいさいほうがよかった?」 と問われたので、おまえについてたらなんでもいい、と返した。 自分勝手で気まぐれなその性格もたぶんなまえだから愛しいのだとおもう。 「あ、ぅ」 なまえの声がどうしようもなくあまくなる。電気くらい消せばよかったかとおもったけれど、ぜんぶ見えるというのはなかなか悪くない。というか暗くしたらまた逃げ出されてしまいそうですこし怖い。こいつはおれの指の間をすり抜けるのがとても得意なのだ。期待だけさせておいて酷いおんなである。 だから今度はぜったい離してやらないと決めた、 「はるや、すき」 「じゃあ付き合うか」 「うん」 「結婚するか」 「する」 「後悔しないか?」 「しない」 ぜったい、しない。 生理的な涙を浮かべてなまえが言って、おれのほうが泣きそうだとおもった。おれたちは遠回りしすぎた。

「あのね」
「ん」
「……やっぱりいいや」
「なんだそれ」
「だって時間はいっぱいあるもん、また今度言う」
「そうか」
「うん。ねえ、晴矢、あいしてるよ」
「知ってる」





モロゾフのチョコレート
20100803



璃雨さまにFor you!
気づいたら微裏ぽくなってましたごめんなさいでも書くの楽しかったです!
裏おきらいでしたらすみません…書き直しや苦情ばっちこいです!
リクエストありがとうございました!







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